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ミーハをハマー(馬)の鞍に乗せ、さっそく川を下ることにした。
探索も狩りも必要なく、単に帰るだけが目的だから案外早い。何度かウッディコングの襲撃を受けたけど、さっきみてーに囲まれる訳でもねぇ。
オレとタオ、そしてミーハの的確な魔法があれば、3人で山を下りんのには十分だった。
「やっぱ、お前の魔法はすげーな」
ミーハに話しかけながら、手綱を操り、馬をどんどん走らせる。
鞍の前に座らせたミーハは、相変わらずオレより細くて小さくて、オレの腕ん中にすんなりと収まる。
色素の薄い、ふわふわの猫毛。懐かしい甘い匂い。
「そっ……」
って、オレの誉め言葉にうろたえて、赤くなってんのも可愛い。
オレの指示に従い、バンバン魔法を使ってんのも可愛い。
「右斜め前方、2匹!」
「ウォーターアロー! ウォーターアロー!」
弓矢を使うより早く、強力で的確にモンスターを打ってく様子は、便利でホントスゲーと思う。
オレもタオも近接戦メインだから、やっぱ遠距離攻撃できる、ミーハみてーな魔法使いはありがてぇ。
理想的だな、と思うと同時に、ミーハじゃねーとって気分になる。
ミーハ以外の魔法使いなんかいらねぇ。ミーハがいい。ミーハとまた一緒にやって行きてぇ。いっそこのまま、さらっちまおうか?
けど、オレのことを覚えてねぇミーハにそんな真似なんかできなくて。ただ細い体に腕を回し、落ちねぇよう支えることしかできなかった。
衝動的にぎゅっと抱き締めると、ビクッと怯えられた。
「な、……なに?」
子猫みてーに警戒されると、「何でもねぇ」としか言いようがねぇ。くったりと身を預けてくれる温もりは、期待するだけムダなんだろうか?
浮かべた笑みにほろ苦さが混じる。
「ほら前向いて。掴まってろよ、飛ばすぞ!」
問答無用でハマー(馬)の腹を蹴り、スピードを上げて走らせる。
川沿いから少しずつ道を離れると、やっぱ馬の方も走りやすくなったみてーだ。
「ふおっ」
小さな悲鳴が上がるたびに口元が緩むけど、まだ一応警戒中だし。四方に目を配るのは忘れねぇ。
目の前にふわふわ浮かぶ猫毛にそっとキスをして、オレはミーハを想いながら、しばらくの乗馬を楽しんだ。
山を何とか無事に降りた後、荒野でしばらく休憩することにした。
オレらも疲れたけど、馬にも休憩が必要だ。
ウッディベアが出りゃ手こずるだろうが、ワイルダーベアくらいなら数頭で囲まれても平気だろう。つっても猿と違って熊のモンスターは、徒党を組んだりしねーけどな。
ちょっと前まで、1頭を仕留めんのさえ精一杯だったのに。何か、タオやミーハと一緒に行動するうちに、随分腕が上がったよな。
苦笑しつつ、手を貸してミーハをハマー(馬)から降ろし、焚き火の準備を始める。
「甘いモン欲しーな」
「お茶で我慢しろ」
軽口を交わしながら火を起こし、それを囲むように腰を下ろす。
ミーハから「あ、の……」と声を掛けられたのは、その時だった。
「あの、お、お、オレ、さっき、『転送』……」
弱々しく告げられた言葉に、タオと顔を見合わせる。
「ああ、上手だったぜ」
「邪魔者はイッソーできたな」
「あいつら、ビックリしたんじゃねぇ?」
タオと2人、ケラケラ笑い声を上げると、ミーハもつられるように頬を緩めて……けどその後、意外なことを口にした。
「あの、オレ、さっき、てっ、『転送』した、時、き、キミの顔が頭に、パッと浮かんだ、んだ」
って。
ドモリながらの言葉に、ドキッとして胸が詰まる。
「た、ぶん、高地。ど、どっか狭いトコから、外を見る、と、キミが、いて。そ、そんで、そこ、に、ハイランダーウルフ、が……っ」
とつとつと語られる記憶の断片に、「ああ……」としか言えなかった。
銀鉱石を探そうと、出向いた高地。あん時もそういや、今と同じメンバーだった。
ゴツゴツとした岩山、あちこちに転がる岩石。デカい岩の向こうに空洞があるって、ミーハとタオが入ってった後、オレはうっかり警戒を怠って――。
頭上から襲いかかって来たハイランダーウルフと共に、ミーハに『転送』させられた。
ルナと出会ったのは、その直後だ。
あん時、オレが倒しきれなかったハイランダーウルフを、ルナは一太刀であっけなく倒したっけ。
「黒の烈風」との実力差を思い知らされた、あの日。当時記憶喪失だった、ミーハの素性を知らされたのも、そのすぐ後の事だった。
「あったなぁ、そういえば」
のんびりと答えるタオの声を聞きながら、無理矢理唇に笑みを刻む。
はっ、と笑おうとしたけど、吐息が震えて自嘲にもならねぇ。懐かしさに浸る余裕もなかった。
「覚えてんのはそんだけかぁ?」
タオの問いに、ミーハはこてんと首をかしげた。
「わ、分かんない」
って。思いっ切り戸惑ってんのが丸分かりな口調。
「ほ、ホントにあった、こと、なの?」
不安そうにローブの胸元をぎゅっと握り、キョドキョド視線を揺らすミーハ。
「ああ。そうだ」
デカい目をまっすぐ見つめてキッパリ告げると、ミーハはびくっと肩を竦めて、赤面しながら目を逸らした。
コップに注がれた茶を飲み干し、出発するべく焚き火を消す。
「行くぞ」
ハマー(馬)の背に乗せてやるため手を伸ばすと、白く小さな手が差し出される。
細い手首は相変わらず白くて――そこに、オレが贈った銀の腕輪はやっぱなかった。
だよな、と思いつつ、モヤモヤが募る。
なけなしの金で贈った恋人の証だ。オレの事忘れてんなら仕方ねーけど、やっぱハメてくれてねぇのは寂しい。
あれはどうしたんだろう? 失くしたんかな? それとも捨てた?
「なあ、銀とルビーの腕輪、持ってるか?」
ダメ元で訊くと、ミーハは馬の鞍の上でまたキョドキョドと視線を揺らし、それから「知、らない」と眉を下げた。
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