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72 砂漠の町編
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修理に出してた剣を受け取る頃、ウッディコングボスの革を使った2人分のブーツもできた。
今まで履いてた普通の革のブーツとは違い、かなり軽い。
ボスと戦った時に見た、あのすげージャンプを一瞬思い出したけど、残念ながらあそこまで身軽にはなれねぇようだ。けど、それでも十分な効果があった。
「後は、実戦で試すだけだな」
その場で軽く足踏みをしながら、タオも結構嬉しそうだ。
「モンスターでも山賊でも、どんと来いだぜ!」
威勢よくそんなこと言ってっけど、商人の護衛を引き受ける以上、危険はねぇに越したことはなかった。
っつーより、「赤い閃光」の名前は結構有名だし。王都に来る途中、あちこちでバカ騒ぎもしてたから、顔も売れてんじゃねーかと思う。
モンスターはともかく、山賊や盗賊なんかには狙われねーんじゃねーのかな?
そう言うと、タオはガーンとショック受けたみてーな顔して、「暴れたいっ」って力いっぱい叫んでた。
王都を離れることに未練はあるけど、剣を預けてる間だって、1回もミーハに会えねーんだから仕方ねぇ。
「じゃあ、行ってくるよー」
「おー、気を付けてな」
「留守は任せとけ」
ハマー(人間)たちの別れの挨拶を聞きながら、オレもハマー(馬)に乗った。
ハマー(人間)が乗るのは、当然荷馬車だ。王都周辺の名産品や、この辺りでしか取れねぇ珍しい素材、それから高価な薬や高級酒、魔法の呪文書とかが積んであるらしい。
そんで帰りには、行った先々での特産品とか手工芸品、子供にウケそうな珍品なんかを仕入れるみてーだ。
何でも扱う、まさに雑貨屋。
「砂漠の街では、サソリ酒とかも仕入れたいんだよね」
と、気楽そうに笑ってるとこ見ると、どうやらホントに節操がなさそうだ。
小さな村によくある形の雑貨商だけど、その雑多でごちゃっとした雰囲気が、王都の住民には逆にウケたらしい。お陰で店も、そこそこ売り上げはあるんだとか。
店の元手はやっぱ、前に一緒に探し当てた宝箱の金貨だろうか。
「へえ、上手いことやってんじゃん」
素直に誉めると、ハマー(人間)は「それ程でも」って謙遜しながら、照れ笑いに顔を緩めた。
宝の地図の件では振り回されたが、商売の才能はあったみてーだ。
確かに思い出して見ると、ハマー(馬)を買って来た手際のよさとか、思い切りのよさとかには感心する面が色々あった。
オレらの前から立ち去る時もあっけなかったし、そういう勘みてーなのが商人向きなのかも知んねぇ。
こんな時ミーハがいたら、「すっ、すごい」って両手を握り締めて、力いっぱい誉めるんだろう。そんな様子に嫉妬する自分の姿まで頭に浮かんで、苦笑するしかなかった。
「お前らの地元まで行けば、帰りはミーハの『転送』でひとっ跳びだと思ったんだけどなぁ」
残念そうに言われ、「諦めろ」って苦笑する。
オレらの地元の街に行っても、あの家に帰っても、もうミーハはいねーし気軽に「転送」も頼めねぇ。
魔法の呪文書を覚えんのには、すげー元手がかかってるし。だからこそ、魔法使いに魔法を頼むのは高額になる。緊急事態でもねぇ時に、気軽に頼めるようなモンじゃなかった。
「ミーハの記憶が戻ったのは、喜ぶべきことなんだろーけどなぁ」
しみじみ言うハマー(人間)に、「まーな」とうなずく。
ずっと借りてた宿も引き払ったし、預けてる武器も装備もねぇ。ルナにも一旦帰ることは伝えたし、家のことが気になんのも事実だ。
……なのに、なんでこんな、忘れ物してるような気分になるんだろう?
王都の門を出る直前、ふとシーン家の屋敷の方に目を向ける。
「ホントに今離れていーのか?」
タオにちくっと言われたけど、また戻って来りゃいい話だし。偶然会えんのを待ってウダウダ過ごすよりマシだ。
ルナには「こっちに引っ越せよ、面倒臭ぇな」って言われたけど、オレの家はやっぱミーハと暮らしたあそこだし。やっぱ処分する気にはなれなかった。
「またコイツの護衛でもしながら、戻って来よーぜ」
ニカッと笑い、ハマー(馬)を走らせる。
「そーだね、頼むよ~」
ハマー(人間)も荷馬車を操りながら、気楽な調子で笑ってた。
王都からの旅は、行きよりも順調だった。
王都周辺の街道も街も、ウッディコングボスの余波を受けてたみてーだ。もう1匹確実にいるって分かってるボスを狙って、山に登ろうとしてる賞金稼ぎの姿も多い。
腕に覚えのある奴らが集まってっから、そこそこの喧騒はあるものの、逆に治安はいいみてーだ。
ザコモンスターは軽い運動代わりに狩り尽くされ、盗賊や山賊の噂も聞かねぇ。
代わりに商売人が多くいて、あちこちに出店ができてる。
王都のちゃんとした店を見てると、露天なんかどこも胡散臭ぇような気がするけど、稼ぎ時には違いねぇ。
ハマー(人間)が仕入れて来た高級酒なんか、あっという間に売れちまって、「もっかい仕入れに戻っていいか」とか言い出す始末だ。
「やめとけよ、この先の街じゃ売れねーかも知んねーぞ」
苦笑しながらハマー(人間)をなだめると、タオもどうやら同じ意見らしい。
「そーだな、ここらにこんだけ賞金稼ぎが集まってんなら、オレらの街なんか過疎ってんじゃねーか?」
「それはシャレになんねーだろ」
他人事みてーに言うタオにツッコミながら、賑やかなメシ屋でメシを食う。
ちらっと地元のことが頭に浮かんだけど、それはまだ遠くて。ミーハのいねぇ家に帰るんだって実感も、同じくなかった。
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