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75 デザートワーム編
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タオには「王都に戻れ」って言われたものの、すぐにはそんな気になれなかった。それにまだハマー(人間)の護衛中だし。いくら何でも、ここで放り出すのはねぇだろう。
「ハマーのことなら心配すんな。お前がいなくても大丈夫だって」
自信たっぷりにそう言われれたけど、事実だけにフォローになってなくてムカつく。気ィ遣って言ってくれてんのは分かるけど、ちょっと素直に「だよな」とは言い難かった。
「いや、いい」
きっぱり断って、取り戻したブレスレットを握り締め、ポケットにしまい込む。
そのままハマー(人間)の護衛を続けることにしたのは、意地もちょっとはあったけど、何より今王都に行ったって仕方ねぇって知ってるからだ。
ボス討伐で顔見知りにはなったものの、ミーハの屋敷で門前払いされることには変わりねぇ。ブレスレットを誰かに託したって、本人の手に届くとも思えねぇ。
もっかい渡したところで、喜んでくれるっていう保証もねぇ。つーか、渡すならやっぱ直接渡したかった。
だったら、今の王都に用はねぇ。
ミーハにも会えねぇ、友達もいねぇような街で、長居するつもりにはなれなかった。
まあ、そんなこと口走ったら最後、「オレがいねーとダメなのかぁ?」とかタオに延々からかわれそうだし、言わねーけどな。
砂漠の街での商談をある程度終えた後、ハマー(人間)が向かうのは砂漠に点在するオアシスだ。
砂漠のモンスターで有名なのは、お馴染みのサソリとデザートライオン、ミミズに似てるって言われるデザートワーム。
けど何より注意が必要なのは、砂漠の深いトコに出るっつーデザートシャークらしい。実物を見た事ねーからよく分かんねーけど、砂の中を水中みてーに自在に泳ぎ回る肉食魚だって話だ。
砂に潜って神出鬼没で、いきなり襲いかかってくんのはサソリやデザートワームに似てるけど、何しろデカいから、避けんのは難しいらしい。
小さいサソリか、デカいデザートシャークか、厄介なのはどっちだろう?
水を嫌うから、オアシス付近にはあんま出ねぇらしーけど、油断はできねぇ。
「出くわさなきゃいいけどなぁ」
気弱そうに天に祈るハマー(人間)とは逆に、タオの方は戦いたくてうずうずしてるみてーだ。
「ええー、そんなのつまんねーじゃん!」
陽気な声でそう言って、自信たっぷりに笑ってた。
オレもまあ、同意見だ。
賞金稼ぎ用の依頼掲示板をちらっと覗くと、デザートライオンやデザートワームの討伐の他、デザートシャークの討伐依頼も勿論ある。
まだ赤枠の懸賞討伐にはなってねーけど、1頭の討伐賞金は金貨10枚もあって、2人で1頭倒しても十分旨味がありそうだった。
丸ごと1頭持って帰れりゃ、もっと高値で売れそうだったけど、馬を1口で食うっつーデカいヤツを、馬に乗せて運ぶのは無理だろう。ハマー(人間)の荷馬車が空っぽでギリギリか。
「オレも『転送』使えたらなぁ」
タオのぼやきに、ふっと苦笑する。
魔法には向き不向きがあるし、適正がなけりゃいくら呪文書を買ったトコで、覚えることはできねぇ。
『劫火』の時のハマー(人間)みてーに……。
ミーハと暮らしてた頃のことを思い出し、やっぱ胸が疼く。アイツが忘れても、オレは忘れることができそうになくて、辛かった。
砂漠を歩く準備が出来上がったところで、ようやく街を出発する。
街道を逸れ、オアシスに向かって道なき道を進んでると、やっぱ時々サソリに襲い掛かられて、思った以上に足止めを食らった。
今までの道中とは違い、こうサソリが出るんじゃ野宿もできねぇ。ろくに休憩も取れず、一番近いオアシスまで駆け足で進むしかなくて参った。
オレらより参ったのは、直に砂漠を駆ける馬だろう。
ある程度のサソリなら蹴散らせるだろうけど、何しろ神出鬼没だし。オレやタオが下馬して迎え撃つまで、どう頑張っても少しはロスがある。
いつもより疲れた様子のハマー(馬)を見て、「ごめんな」って思わず謝っちまうくらいだった。
デザートライオンやデザートワームにも襲われたけど、こっちは思った以上にあっさり討伐できてホッとした。
どっちも1~2頭くらいしか出なかったし、ウッディコングに比べりゃ動きも遅い。
あの時は四方八方に気ィ配んなきゃいけなかったけど、砂漠の場合は足元だけに注意してりゃ何とかなるし、案外楽に戦えた。
危ねぇ、ってなった時、バッと高く飛び上がれんのも良かったと思う。
「やっぱ、身軽なのはいーな」
「だろー? 装備大事だぜ」
しみじみ呟くと、タオにニカッと笑われた。
ミーハと暮らしてた頃は、そういや呪文書を買うの優先してたよなぁと思う。あの頃はそれで当然だと思ってたけど、今思うと確かに無謀だったかも。
今回は勿論砂漠の街で、炎系に強いブーツを購入済みだ。デザートライオンよりデザートシャークの革の方が、強度もあるしヒンヤリ涼しいとか聞いたけど、残念ながら売り切れらしくて、街では手に入んなかった。
「どっかで遭遇しねーかなぁ」
しみじみ呟くタオに、「やめてよぉ」とハマー(人間)が情けねぇ顔で文句を言う。
「そんなこと言ってたら、ホントに出ちゃうから!」
って。
タオは「いーじゃん」ってニシシと笑ってたけど、これについてはちょっとハマー(人間)に同感だ。
デザートシャークには、確かに1度くらい挑戦してみてぇ。
けど、ハマー(人間)や荷馬車、ハマー(馬)らを護りながら戦うのは不利だし。その機会は、また今度にとっといてもいいだろうと思った。
街から1番近いオアシスには、日が暮れてから到着した。
日中、バカみてーに暑かったのに、日が暮れると結構寒い。けどこの寒さのお陰で、サソリはともかくデザートライオンとかは夜に徘徊しねーらしい。
砂の中に潜る、デザートワームとかには注意が必要だけど、4つ足のモンスターが出ねぇならまだ楽だ。
「ようこそ、オアシスへ」
門番の挨拶を受け、小さな集落に馬を進める。
当たり前だけど周囲は高い壁に囲われてて、土地が小さい分、街や村に比べると狭いなって印象が強かった。
商人の荷馬車だって知れ渡った途端、夜だっつーのに住人たちがわっと出てきて荷馬車を囲む。
「酒に小麦、ハチミツもあるよー」
ハマー(人間)がソツなく呼び込みをして、人々がうわっと盛り上がる。
サボテン酒よりもブドウ酒の方が当たり前だけど高く売れて、ハマー(人間)は忙しそうだったけど、ずっとスゲェ笑顔だった。
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