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魚系のモンスターを見たのは初めてだった。
どっかの深い川に、肉食のヤツがいるとか聞いたことはあったけど、オレらの住んでた辺りの川は、そんな大した水位じゃねーし。普通の魚しか見た事なかった。
もしかしたら王都のどっかで素材になってんのが売ってたかも知んねーけど、そこまで街歩きしてねーし。砂漠の町でも、残念ながら売り切れで、姿を見ることはできなかった。
砂の上に飛び出た三角形のヒレが、スルスルと動く。
音がねーのがすげー怖ぇ。ヒレの大きさから本体のデカさも分かって、それも怖ぇ。馬が1口で食われるっつーのも分かる気がした。
顔をこわばらせながら、剣を構えてヒレを見守る。
右に左に、水中を泳いでるみてーな自在さで、スルスルと砂ん中を泳ぐサメ。その内そのヒレが、ゆっくり輪を描くように、オレらの周りを回り出した。
「来るぞ」
タオに言われるまでもなく、息を詰めてヒレを見守る。
やがてヒレが、ピクリと止まって――次の瞬間、ぶわっと砂を散らしながら飛び上がった。
デカい。速い。けど、タオの方が速い。
「くらえっ!」
叫びながらびゅうっとタオが両手の剣を振る。オレも一瞬遅れて走り寄り、サメの横っ腹めがけて剣を突き出した。
剣がはじかれるような手ごたえと共に、わずかに魚臭ぇ血しぶきが飛ぶ。
「くそ、固ぇな!」
さっきまで肉質の軟いワームばっか斬ってたせいで、余計にサメ皮が固く感じる。こりゃ確かに、いい防具になりそうな皮だ。
オレらの攻撃を受け、デザートシャークは馬からわずかに離れた場所に着砂して、姿を消した。
ヒヒンといななく馬たちをなだめつつ、油断なく周りに気を配る。
「馬狙いか?」
「そりゃ、オレらよりデケェしな」
オレの問いに、同じく周りを伺いながら答えるタオ。その目は獲物を前にランランと輝いてて、味方としては頼もしい。
けど、オレだって負けてらんねぇ。
再び現われたヒレを睨み、動きを予想しつつ素早く駆け寄る。ヒレの根元を狙って思いっ切り剣を突き立てると、巨大なサメはいきなり砂から飛び出して、オレを真下に振り落とした。
「うわっ」
とっさに受け身を取り、砂の上をゴロゴロと転がる。
素早く起き上がると、ちょうどタオが空を飛び、気合と共にシャークの腹をぶった切ったトコだった。
ギャアア、と響く不気味な悲鳴。
血しぶきを散らしながら、デザートシャークが再び潜る。
逃げたか? ちらっとそんな考えが浮かんだけど、この獰猛なモンスターに、そんな選択肢はねぇらしい。
また砂上に現われ、オレらの周りを丸く泳ぎ出すデザートシャーク。気のせいか、さっきより速度が上がってて、緊張にごくりとノドが鳴った。
1、2とタイミングを計り、さっきと同じ要領でデカい背ビレめがけて飛ぶ。
「あああっ!」
気合と共に剣を刺すと、再び上に飛び上がるシャーク。
そこを狙って、腹に攻撃を仕掛けるタオ。びゅびゅっと双剣が風を切り、勢いを失ったシャークが、悲鳴を上げてドスンと砂の上に落ちる。
勿論、考えてる暇はねぇ。砂埃が立つ前にジャンプして、びちびちと悶えるサメの上で体を捻り、真上から剣を突き刺す。
ドスッ、と重い手ごたえ。次いで、びちびち悶える衝撃が、剣越しにオレに伝わった。
「くそっ」
振り落とされねぇよう、必死で剣にしがみつき、体重をかけて更に深く刺す。
間もなくタオも駆けて来て、2本の剣でデザートシャークの頭部にトドメを刺した。
「……やったか?」
ぴくりとも動かなくなったモンスターから、力任せに剣を引き抜く。
「……やったな」
タオが頭部に軽く蹴りを入れ、それからニカッと満足そうな笑みを浮かべた。
勿論、オレの方も笑えて仕方ねぇ。「よっしゃー!」と声を上げ、タオと2人でハイタッチを交わす。
皮が固くて最初はビビったけど、倒してみりゃあっけねぇ。
「これなら2、3匹いけんじゃねぇ?」
「そんなに馬車に載らねーだろ」
2人して軽口を叩きながら、デザートシャークを運ぶべく、荷馬車をこっちに寄せようとした。
時間にして数秒。デザートシャークの死骸から、ほんの数歩離れた時――。
ボコッ、と、デザートシャークの周りの砂が跳ね上がり、そこにデカい穴が開いた。
馬を一口で食らうっつー、デザートシャークの大きさは体長約10m。その横たわったシャークがデカい穴ん中に消え、さすがにギョッと鳥肌が立つ。
剣を抜きながら振り向くと、直後、その穴から巨大な何かが飛び上がった。
何かの口にはさっき仕留めたデザートシャークがかかってて、ばくりと一呑みにされたのが見えた。
ずるずると砂から飛び上がる、白っぽい不気味で巨大な腹。
「野郎!」
反射的に剣を振るい、斬り付けると、肉質はワームみてーに軟い。けど、ワームと違うのは、そのデカさだ。
同じくタオも双剣を振るってんのが見えるけど、まるでダメージを与えてねぇ。
巨大なサメより更に巨大な何かは、オレらの攻撃をキレイに無視して、再び砂中に戻ってった。
「アル……」
さすがに声を震わせて、タオがオレを振り返る。
「すぐに帰んぞ」
「ああ」
タオに言われるまでもねぇ。剣を鞘に戻し、急いで馬車に駆け戻り、必死に馬を走らせた。
オレが御者席でムチを振るう間、タオは荷馬車の上に立って、周囲を警戒。
いつさっきの化け物が襲って来るかヒヤヒヤしたけど、サメ1匹で取り敢えず満足してくれたらしい。
オレらがオアシスに到着するまで、幸い何にも襲われることはなかった。
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