アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
82
-
オレらの帰還を経て、オアシスは一転、お祭り騒ぎに変わった。
デザートワームボスの巨大な死骸は、ミーハの『転送』で王都に送られちまったけど、肉質も皮も軟いし装備には使えねぇから、問題はなかった。
牙は矢じりとかに使えそうだったけど、オレもタオも剣士だし。竜種じゃねーから竜玉も出ねぇ。分け前は、賞金貰えりゃ十分だった。
その賞金も、砂漠の街で受け取れるらしい。
オレとタオとが狩りまくったワームの肉と、サボテン酒とで、真昼間から宴会が始まる。
オアシスの中央広場にはにわか屋台が設置され、あっちこっちで肉料理が振る舞われた。
デザートワームの形状を思い出すと、何とも言えねぇビミョーな気分にはなるけど、皮を剥がれてぶつ切りにされ、甘辛のたれでジュージュー焼かれてんのを見ると、美味そうに見えるから不思議だ。
それとも、みんなでわーわー騒ぎながら食うから、美味いんだろうか?
「これ、美味しー、ねっ」
無邪気に笑うミーハに「そーだな」って苦く笑って、フード越しに頭を撫でる。
その頭の位置を少し低く感じて、自分の背が伸びたことを自覚した。
デザートワームボスの討伐と巣の駆除が終わった後、ミーハの付き添いの魔法使い2人は、さっさとミーハを王都に連れ戻そうとした。
「ジュニア様、お仕事は終わりです。早急に帰還し、ご当主殿に報告を」
って訳だ。
けど、それをルナが「いーじゃねーか」って阻止した。
「せっかく祝賀会やってくれてんだ。きちんと出席してそれを受け取んのも、大事な仕事だろ。じーさんに報告が必要なら、オレがやってやるよ」
魔法使いたちは「しかし……」って食い下がってたけど、結局ルナを無視することはできなかったみてーだ。
「オレが信用できねーのか?」
キツイ目で凄む「黒の烈風」に顔を見合わせ、ミーハを放置して一旦王都に帰ってった。
こういうとこ、「転移」が使えるのは便利だなと思う。
ミーハのじーさんに言いつけに行ったのか、それとも単純にここにいたくなかっただけか。よく知らねーけど、あれこれ口出しして来られんのは、オレだって面倒だし。帰ってくれて助かった。
ルナがミーハのことに口出ししたのは意外だったけど、よく考えりゃそう不思議でもねーのかも。
「オレぁ、他人の努力を評価しねーヤツは嫌ぇなんだよ」
ちっ、と舌打ちしながら呟いたルナは、どっちかっつーとミーハの味方みてーだった。
「なぁ、チビ」
と、オレよりもデカい手でミーハの頭をぐりぐり撫でてんのを見ると、やっぱどうしてもムカッとする。
「ルナ、さんっ。ありがとう!」
キラキラの無邪気な笑みを向け、礼を言うミーハも面白くねぇ。
けど、そんなモヤモヤも、このわずかな時間、ミーハと一緒にいられる幸せに比べりゃ大したことなかった。
「たれ、付いてんぞ」
口元からちょこっとはみ出した甘辛のたれを、指でぬぐってぺろりと舐める。ぽかんと口を開け、それからじわーっと赤くなってくミーハが、すげー可愛い。
可愛くて、愛おしくて、好きだって思いがこみ上げる。
けど、以前なら「もうっ」ってふくれっ面しただろう恋人は、その記憶を失くしてて。黙ったまま真っ赤な顔で、ギクシャクうつむくミーハの仕草に、ちょっとだけ視界が潤んだ。
一方のルナは、タオとわいわい騒ぎながら、競うように肉を食い漁ってる。
「アイツら、よく食うな」
少々呆れながら呟くと、ミーハも「ホント、だ」ってにへっと笑った。
オレらがいっぱい狩って来たワーム肉だけじゃなくて、勿論、名物のサソリやサボテンの料理もあった。
「サソリもあるぞ。野菜も食えよ」
サソリの唐揚げと、サボテンの薄切りとを皿に盛り、サボテンを食いながらミーハに勧める。
「野、菜?」
ミーハはサボテンを見て、こてんと首をかしげてたけど、そんな様子も可愛かった。
オレの真似して指でつまんで、ぺろっと食べてんのも可愛い。
「サソリも、好き、だ」
って、デカい口でぱくっと食って見せるのも可愛い。
「お前、サソリ好きだよな」
前にルナと3人で行った、あの店でのことを思い出す。
苦笑しながらしみじみ言うと、ミーハは「う?」と首をかしげて――。
「サソリ、前に……」
と、デカい目を宙に泳がせた。
「……前、に、アル君、と……? ……あ、れ?」
失くした記憶を探るように、遠い目をするミーハ。
「ルナ、さん……?」
不安げに「黒の烈風」の姿を探す元・恋人の姿に、ズキッと胸の奥が痛んだ。
「ああ、ルナとオレとお前、3人でサソリ食いに行ったよ。覚えてねーか?」
責める口調にならねーよう、必死に気持ちを押さえて苦く微笑む。
ポケットの中の例の腕輪を思い出し、渡すなら今か、とタイミングを計る。
「あ、ミーハ~」と、緩んだ声がオレらの間に割って入ったのは、その時だった。
「久し振り~」
緩い口調で軽く手を上げ、ミーハの前に立つハマー(人間)。
ハマー(人間)はミーハの幼馴染だ。記憶を失くしたミーハが、割とすぐにその顔を思い出した、幼い頃からの顔なじみ。じーさんに引き取られる前、困窮してたミーハのことを知る、唯一の仲間。
オレと過ごした間のことを忘れちまったミーハは、やっぱハマー(人間)のことも忘れてたけど……。
「オレだよ、ハマーだよ~。昔一緒に遊んだじゃん?」
そんな気安い言葉と共に、「研磨」した色石を見せた途端、ミーハはパァッと笑顔になった。
「は、ハマちゃん!? なつっ、かしっ」
デカい目をキラキラさせ、幼馴染を見上げるミーハに、ムカッとする。
あっさり思い出して貰えてよかったな、と、恨みを込めてハマー(人間)を睨んでやったけど、ミーハとの会話に夢中で気付かれねぇ。
余計にムカムカを抱え、サソリの唐揚げを八つ当たり気味に咀嚼する。
こんな時でも唐揚げはやっぱ美味くて。ニコニコ顔で幼馴染と喋るミーハも可愛くて。イライラをため息と共に吐き出すしかなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
82 / 102