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「待てよ。そいつを降ろせ」
オレと鎧の男との間に立って、タオが言った。
こっちに背中向けてるけど、怒ってんのは顔を見なくても分かる。赤いオーラが全身から立ち上ってるような錯覚さえ見えてくる。
空気がビンビンに張り詰めて、痛いくらいだった。
タオの言葉に従うように、男がゆっくりとミーハを降ろした。ミーハはサッと駆け出してオレの元に戻って来るけど、男の視線は揺らがねぇ。真っ直ぐにタオを見つめてる。
きっとタオも。
闘気を漲らせて睨み合ってた2人の剣士は――どのくらいそうしてたかな、やがて、同時にふうっと肩の力を抜いた。
「スッゲーな、あんた! オレに迫力負けしなかったヤツ、初めてだぜ」
タオが、無邪気に笑って言った。
男の方も、笑顔を浮かべてる。
「ああ、おめーもな。相当ヤルんだろ?」
肩を叩き合い、背中を叩き合う2人を見て、オレの方も大きく息を吐いた。ミーハも。
けど、「赤い閃光」のタオと互角って。この男、何者だ?
単純にもあっさりと意気投合した2人に連れられ、オレらは近くのメシ屋で4人で話をすることになった。
オレらの家でどうだ、つって言われたけど、他人に踏み込まれたくねーんで「ワリーけど」つって断った。タオんちは親兄弟が多くて大所帯だし、メシ屋の方がまだマシだ。
「さあ、チビ。もう乱暴しねーから」
鎧の男が優しくミーハに言って、大きな手を差し出した。
けど、記憶のねぇミーハは怯えるばっかで、ずっとオレの背中に隠れっぱなしだ。
「チビ……」
男が困ってんのを見かねたんか、タオがオレに「説明してやれよ」と言って来る。
「ミーハの為にもなんねーぞ」
って。
んなの、分かってるっつの。何があっても受け止めて、支えるって誓ったんだし。
はあ、と息を吐く。
「歩きながら話すことでもねーだろ。座って落ち着いてからにしようぜ」
オレはそう言って、ミーハの肩を抱き寄せた。
ハマー(人間)の時はすんなり話せたっつーのに、なんでこの男に話そうと思うと、スゲー気が重いんだろう?
あん時だって、嫉妬して苦しいくらいだったのに。今は嫉妬っつーより、無性に怖ぇ。
ミーハの迎えが来ちまった、と、そう悟らずにはいらんなかった。
朝から繁盛してるメシ屋の隅のテーブルで、オレ達はそれぞれ自己紹介をし合った。
男は、ルナと名乗った。ルナ・サンダー。
「『黒の烈風』だろ?」
タオがニヤッと笑いながら訊くと、ルナは興味なさそうに「まーな」と答えた。
「そう呼ぶヤツもいるな」
コイツにとって他人の評価なんてのは、大して気にするもんでもねーらしい。余程自分に自信があるんだろうな。
「黒の烈風」――都で評判の天才剣士。その告白に、オレはあんま驚かなかった。
だって、タオと互角な若い男なんて、そうはいねぇ。
で、その天才剣士は、崖から落ちて行方不明になってた「シーン・ジュニア」を、ずっと捜し歩いていたらしい。
何しろ、ルナの知ってる「シーン・ジュニア」は優秀な魔法使いだ。
離れ離れになったって、『転移』で簡単に安全なところにいけるハズで。だから、怪我をしたソイツが行きそうな場所、例えば大きな診療所やシーンの実家なんかに自力で移動してるだろうと……そう心配はしてなかったんだそうだ。
「それがさー、行きつけのどの診療所にも来てねぇっつーし、実家には帰ってねーっつーし。じゃあ、もっかい落ちた現場に戻ってねーかと思ったけど、やっぱいねーしよぉ。ったく、心配したんだぞ、チビ!」
ルナはそう言って、ミーハの頭をゲンコツで軽く小突いた。
その慣れた様子に、胸の奥がズキッと痛む。
その後ルナは、1ヶ月かけて山中を捜し、2ヶ月目には川沿いを捜したんだそうだ。
「杖が折れて、魔法が使えなくなってんじゃねーかと思ったんだよ。でもやっぱいねーし。こりゃ、緊急事態かも知んねーなと思ってよ」
そしで最近、ようやく近隣の村や町で、賞金をかけて張り紙を出し始めたんだそうだ。
尋ね人に金貨100枚――これは、「シーン・ジュニア」の実家からの依頼でもあるらしい。
「まさか、記憶喪失とはなぁ……」
ルナは、信じらんねーって顔で深々とため息をつき、「まあ、でも良かった」っつって、またミーハに手を伸ばした。
今度はゲンコツじゃなくて手のひらで、柔らかい猫毛をわしゃわしゃと撫でる。
「てっきり、もっとヤベー事になってると思ったからな」
そう言ってミーハを見つめるルナの目は、ホントに優しくて、複雑だった。
スゲー落ち着かねぇ気分。
嫉妬して仕方ねーのに、勝ち目がねーことを認めざるを得ねぇ。
タオと同格の天才。
恵まれた背丈、鍛え上げた肉体を誇る剛の者。重そうな黒の鎧を、難なく着こなすパワー。長剣を腰に下げても、切っ先を引き摺らない長い脚……。
ミーハは、こんなヤツとチームを組んでたのか。
こいつはミーハの過去を……「シーン・ジュニア」のことを、全部知ってんだろうか。
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