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85 西山再訪編
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久々に帰って来たオレの家を見て、「はあっ!?」って大声を上げたのはルナだった。
横でわぁわぁ騒がれると、帰って来たなぁとか感慨に浸る気分も吹き飛ぶ。ミーハのいねぇ現実に胸を炒める暇もねぇ。
「なんで岩がねーんだよ!?」
目を見開いて喚かれ、「ああ……」と遠い目を向ける。
そういやコイツが来たときは、あの黒曜石のデカいのが家の前に置かれてたなって思い出した。
単にミーハの大ざっぱな『転送』の呪文で、家の前に飛ばされただけだったんだが、ルナはそういや「すげーな、趣味いいな」とか大喜びだったっけ。
その後、王都のコイツの家の前に似たような黒曜石の大岩を見つけて、ドン引きしたのももはや懐かしい思い出だ。
「売った」
短く答えると、「なんで!?」って食ってかかられて、更にドン引く。
なんでも何も、元々金になりそうだからっつって山から運んだモンだったし、狭い家の前にあんな大岩がデーンとあっても邪魔でしかねぇ。
わざわざ飾っとこうとするルナの方が、おかしいとしか思えなかった。
「あんときゃ金がなかったんだよ」
懐事情をバッサリと説明すると、さすがに文句は言えねーみてーだけど、やっぱ不服そうではある。
あの黒曜石を売った金で、ミーハにやった銀のブレスレットを作ったんだが、その辺は別に言わなくてもいいことだ。
ルナに後ろ手を振り、懐かしい我が家の鍵を開ける。
数ヶ月間放ったらかしだった家は、なんか随分煤けてて、ガランとしてて寒かった。
裏庭も草ぼうぼうだ。
「適当に食ってキレイにしてくんねーかな」
ハマー(馬)にそんな無茶振りを投げかけつつ、庭につないで荷を下ろす。なだめるように背中をぽんと軽く叩くと、ハマー(馬)はまるで返事をするように、オレに鼻面を押し付けた。
「ただいま」
ぼそりと呟いて、誰もいねぇ家の中を見回す。
『おかえ、りー』
にへっと笑いながら駆け寄り、抱きついて来る、恋人の姿の幻を見る。
やっぱ、1人でここに住むのは無理かも知んねぇ。まだ1晩過ごしてもねぇけけど、どんだけ経ってもミーハの不在に平気にはなれそうになかった。
窓を開けて空気を入れ替え、簡単に掃除をしてから、市場の方に買い物に出た。
自分は別に外食でいーけど、馬の飼葉は仕入れねーとどうしようもねぇ。
飼葉と、あと果物を幾つか。頭ん中で考えながら、懐かしい路地を歩き、久々の故郷の街並みを眺める。
「久し振り」って声を掛けてくれる住人もいる。「王都に行ってたんだって?」って聞いてくる住人もいる。いつも通り「よお」って挨拶してくれる連中もいて、懐かしい。
やっぱ地元はイイ。
けど、それ以上にアイツがいねーのが辛い。
帰って来てくれんのを待つつもりだったけど、早くもその決心はぐらついてて、自分でも情けねーなと思った。
買い物を済ませ、ハマー(馬)に飼葉と果物を与えてから、再び家を出て中心街の方に出向いた。
まずは腹ごしらえをするかと、メシ屋のある方に足を向ける。
いつもそこそこ賑やかな界隈が、いつもより賑やかだ。派手な笑い声のする店を覗くと、案の定ルナやその他の剣士たちがいて、まだ昼間だっつーのに宴会みてーに騒いでた。
「おお、来たか」
顔見知りになった剣士から手招きされ、「ああ」と返事してテーブルに近付く。
「ここは何が名物なんだ?」
「ここらは荒野が近いから、ワイルダーベアかワイルダーディアだな」
「ああ、あれかぁ」
納得したようにうなずく剣士に肩を竦める。
王都の近くにも荒野があったし、熊も鹿も出るだろう。味付けは多少違うかも知れねーけど、そんな珍しいモンでもねーだろうと思った。
重いだけであんま金にもならねーくらい珍しくねーから、ハマー(馬)がいねぇ頃は、肉なんか持って帰んなかったっけ。
砂漠の町の住人がよそで暮らせば、たまにサソリとかサボテンを食いてぇって気持ちになるんだろうか?
でもオレにとって懐かしいメシっつったら、この町のメシ屋の肉料理じゃなくてミハシの作ってくれたメシだ。
「オレにも日替わり」
給仕のオバサンに声を掛け、横から差し出されるままに酒を飲む。
久々に食った定食は、確かにちょっと懐かしい味がしたけど、感傷に浸る程じゃなかった。
「へぇ、割とこじんまりした町なんだな」
「けど近くに荒野はあるし、高地もあるし、腕を磨くにはいーんじゃねーか?」
剣士たちの言葉に「まーな」と相槌を打ってると、町に住みついてる賞金稼ぎ達も、その内会話に加わって来た。
「砂漠もそんな遠くねーし、いいぜ」
とか。
「西にある小さな山も、悪くねぇ」
とか。
「高地では銀も採れるからなぁ」
とか。
王都から来た連中は興味深そうに聞いてるけど、オレにとってはどれも既存の情報ばっかで、目新しいことはなさそうだった。
高地のもっと上に行くと、洞窟もあったり滝もあったりすんだけど、生憎そんな強ぇのはいねぇ。
けどまあ考えて見りゃ、旅に出てから何年も経つ訳じゃねーんだし、そうそうモンスターの分布も変わる訳がねぇ。そう思ったけど――。
「最近、西山ではトカゲが大繁殖してるらしくて……」
誰かがぽろっとこぼした話に、思わず「えっ!?」と声が漏れた。
「トカゲ? 蛇じゃなくて?」
不思議に思って訊き返すと、「そうなんだよ」ってうなずかれる。
「前は毒ヘビがうようよいたんだが、それがパッタリ出なくなってからは代わりにネズミが繁殖してな。ネズミの駆除依頼が減ったと思ったら、今度はトカゲだぜ」
「トカゲがネズミを食ったんだろ」
「けど、大繁殖も困りモンだな」
賞金稼ぎ達がわいわいと話す中、オレはぼうっと西山のあの情景を思い浮かべた。
毒ヘビの群れ。『劫火』。古い蛇塚と宝の地図……。オレにとってはトラウマものの場所だったから、ミーハがいなくなって以来、タオと修行してた間も、西山には出向いてなかった。
掲示板の依頼書はチェックしてたつもりだったけど。ネズミが大繁殖したのって、ヘビ塚をオレらが壊したことと、何か関係あんのかな?
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