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西山の話は、タオの耳にも入ってたらしい。メシ屋を出たところで、タオとハマー(人間)に捕まった。
「アル、トカゲ行くだろ?」
ニシシ、と笑いながらガシッと肩を掴まれて、「はあ?」と2人を振り返る。
確かに気になる話ではあったけど、「当然行くだろ」みてーに言われると、素直に肯定したくねぇ。
「トカゲなんかどーすんだよ。『劫火』でもねーと面倒臭ぇだろ」
頭の中に浮かぶのは、草むらを無数に這い回る毒ヘビの群れだ。
1匹1匹が小柄で、しかも猛毒を持ってたから、剣でちまちま倒すのは無理だった。ミーハ程の使い手じゃねーにしても、魔法がねーとキツイだろう。
いくらタオが天才だっつったって、数の暴力には勝てそうにねぇ。
「ファイヤー系の魔法使えるヤツ、誰かいねーの?」
オレより顔は広いだろうと思ってタオに訊くと、ハマー(人間)が横から「燃やさないでよ~」って言って来た。
「買い取るよ~?」
と、そういうからには、多少の儲けはあるみてーだ。
まあ、行く先行く先で色んなモンを買い込んで、他の街で売りさばくみてーな商売してるから、どっかで需要もあんのかも?
「トカゲなんか売れんのか?」
半信半疑で訊くと、薬になったり食肉になったり酒に漬けたり、使い道はそれなりにあるらしい。
「トカゲって、ワイルダーリザードでしょ?」
ハマー(人間)に逆に訊かれたけど、そんなモンスターはこの辺じゃまず見ねーし。そもそも西山は荒野じゃねーから、どうなんのか分かんなかった。
王都よりもっと先に行ったとこだと、割とよく出るモンスターらしーけど、じゃあ、その付近の名物は、トカゲの丸焼きみてーな感じになるんだろうか?
それもちょっとな、と思うけど、よく考えりゃサソリとかデザートワームよりマシかも知んねぇ。
ただ、あんま美味そうなイメージは持てなかった。
「まあ、金になるっつーんなら行ってもいーけど、2人じゃ無理だぜ」
顔をしかめながら言うと、タオは「3人だろ」ってハマー(人間)を指差した。
「オレは数に入れないでよ~」
慌てたように首を振るハマー(人間)に、ため息をついて同意する。
ハマー(人間)が戦力になんねーのは、前回の毒ヘビの時から分かってる。王都からの道中、タオだって分かってるハズだ。
「お荷物がいると、余計大変だぞ」
ぐいっと親指を立て、ハマー(人間)に向けてやる。
「お荷物はヒドイな~」
緩い口調で抗議して来るけど、じゃあ頼りにしてもいーのかっつの。
「だーいじょーぶだって。毒はねぇらしーし」
タオは相変わらず楽観的だ。その性格は時々すげー頼もしーけど、時々すげー不安になる。
「取り敢えず、様子見るだけ行ってみよーぜ。なっ?」
最後の一言と共に、肩にガシッと回される腕。その腕は案外力強くて、まるで「逃がさねーぞ」って言われてるみてーに思えた。
オレとしてはハマー(人間)には町で留守番しといて貰いたかったけど、本人がどうしても行きてぇっつーんで、ふもとの村まで、取り敢えず連れてくことにした。
出発は翌日、ハマー(人間)の驕りで朝メシを食ってから。
久々に訪れた西山の風景も、ふもとの村のさびれ具合も、相変わらずでちょっとばかり懐かしい。
ミーハと一緒に訪れたスペルショップも健在で、懐かしさと同時に空しさにも襲われた。
……ああ、ここで『氷山』買おうとしたんだっけ。でも金がなくて買えなくて、諦めたんだったな。
今なら楽勝で帰るだろう呪文書が、逆に買う必要なくなっちまったんだから皮肉な話だ。
ハマー(人間)は前に来た時と同じく小さな花束を買い、荷馬車の荷台にそっと置いた。
オレとタオはその間、村をぶらつきながら情報収集だ。
「トカゲ出るんだって?」
「ネズミはどうなった?」
適当な村人に話しかけると、「ネズミよりはマシだけどねぇ」って口々に言われた。
ネズミはモンスターじゃなくて、野生のネズミらしーけど、村に降りて来ることもあって、かなりビビったって話だ。
まあ、ネズミは穀類も野菜も齧りまくるし、齧られたモンは売り物になんねーだろうから、大変だよな。
けど、だからってトカゲ……ワイルダーリザードを歓迎してるかっつーと、そういう訳でもねーらしい。
「まあ、ほどほどに間引いて貰えりゃ……」
と、そんな曖昧なことを言われた。
つまり、根絶やしにはするなっつーことだろうか。
蛇塚を壊しちまったの、オレらだって言うと恨まれる可能性もあんのかな?
多少複雑ではあるけど、もう蛇を寄せてた円盤は壊しちまったんだし、仕方ねぇ。特に何も告げず、オレらは黙ったまま蛇塚のあった辺りを目指した。
蛇塚の目印は黄色く塗られた石だったけど、それがまだ見えねぇ内から、トカゲがかなりいんのが分かった。
トカゲっつーから手のひらサイズかと思ってたけど、実際見た大きさはネコくらいはあって、予想よりデカい。
「うわ、デケーな!」
素早く馬を下り、群がるトカゲを手早く斬って、ハマー(人間)の荷馬車の荷台に放り投げる。
デザートワームの群がり具合よりはマシだけど、デザートワーム程軟くねーから、1匹1匹仕留めんのが地味に負担だ。
「サメよりは軟ぇだろ」
「サメと比べんな」
タオの陽気な声に、すかさずツッコミを入れつつ剣を振るう。
「コイツもボスいるんじゃねぇ?」
ニシシ、と笑うタオに、「イヤなこと言うな」ってゲンコツをくれてやったのは勿論のことだ。
1回の襲撃で、オレもタオも10匹くらいは斬っただろうか。荷馬車のおよそ3分の1が埋まっちまって、かなりの数だなって呆れた。
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