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前にオレらが野営の後を見つけた辺りで、数人ごとに分かれてドラゴンを探索することにした。
オレと一緒なのは、タオとルナ。
天才剣士2人が一緒でいーのかよ、と思ったけど、他の連中には特にこだわりもねぇらしい。
適当に気の合うヤツと組み、適当に別れてく。そんでも、みんな顔を引き締め、真剣な様子なのは一緒だった。
こんなドラゴンの気配ビンビンな場所じゃ、緊張すんなっつーのが無理はと思うけど、タオやルナにそんな常識は通用しねーようだ。
「ワクワクすんなぁ」
とか。
「早く出て来ねーかな」
とか。楽しみで仕方ねぇって顔してて、おいおいって言いたくなる。
期待と興奮で頬を赤くしてるミーハは可愛いけど、デカい図体した天才がニヤニヤ笑ってんのは可愛くなかった。
ただ、まあ、頼もしくはある。
馬たちの手綱を引きながら、岩場を抜け、灌木の茂みの方にずんずんと歩く。ハマー(馬)もタオらの馬も、ちょっと怯えてて落ち着きがねぇ。
ドラゴンの存在は疑いようもなかった。周りを油断なく警戒する。
「地面に潜ってたら、見付からねーんじゃねーか?」
「いや、ここは砂漠じゃねーから、んな簡単に潜ったりできねーだろ」
そんなルナの解説を聞きつつ、そうだよな、と岩場を見る。簡単に潜れねーとしたら、じっと動かずに岩のフリするしかねーだろう。
けど、さっきんとこと同様、この辺の岩や石も白っぽい。どう見てもドラゴンが隠れんのには不向きで、この辺にはいねーだろうなと思った。
「もうちょっと緑っぽいっつーか、茶色っぽい岩場のあるトコって、どこだろうな?」
ソロで何度か来てるらしいタオに視線を向け、心当たりを尋ねる。
「茶色っぽい岩場? この山、山頂も白っぽいかんなぁ……」
うーん、と考えながら呟くタオに、「だよな……」とオレも考えを巡らせる。
タオと何回か武者修行に来た山だけど、さすがにこの山を全部くまなく歩き回った訳じゃねぇ。オレらの行ってねぇ、反対側の方とかにそういう場所があんのかも知んなかった。
ふと、灌木の茂みがガサッと揺れた。
「アル、後ろ!」
タオの鋭い声に振り向きざま、剣を抜く。
ハイランダーウルフだ。そう気付くと同時に、視界を赤と黒の剣筋が横切り、ウルフがどうっと地面に落ちた。
まったく、活躍する隙もねぇ。
コイツら天才2人にとっては、狂暴なハイランダーウルフもただの雑魚だ。そんでオレは、やっぱ格下だ。
「ちっ」と舌打ちしつつ剣を鞘に戻すと、タオに「怒んなよ」って悪びれずに言われた。
「どーせ放っとくしかねーんだからさ」
って。確かにウルフの素材なんか採ってる暇はねーし、倒し損っつったら倒し損なんだけど、そういう問題じゃねーだろう。
「はー、勿体ねぇ」
そう言いつつウルフに蹴りを入れ、足場の下に蹴り落とすルナ。
ガラガラと砂利を鳴らしながら落ちてくハイランダーウルフの姿は、そこそこ高値だけに哀れだ。
「滝壺にでも落としときゃ、下流に流れ着くんじゃねぇ?」
タオが双剣を鞘に納め、呑気な様子でニハハと笑う。
「いや、ここの滝って、そんな水嵩ねーと思うぜ。大雨の後でもなきゃ、途中の岩場で引っかかんじゃねーか?」
タオの軽口に言い返しつつ、川に落ちたモンスターの姿を想像する。
大雨。
谷川。
何かが流れ着くとしたら、川が大きくうねって浅くなる荒野で――。
――ミーハ。
大雨の後に流され、記憶を失くした恋人の事を思い出し、胸に喪失感が駆け抜けた。
「アル?」
タオに声を掛けられ、「ああ……」と返事して頭を振る。
今はミーハのことより、ロックドラゴンの討伐だ。そう思うのに、何かがすげー引っかかる。
そういや、ミーハが落ちた時って確か、ルナと一緒だったハズだ。
「なあ、前にミーハが……」
オレがそう問いかけんのと、ルナが「あっ」と声を上げんのと、ほぼ同時だった。
「そういやチビが足を滑らせた辺りは、水気が多くて岩の色が違ってたぞ」
「マジか!」
タオの言葉に、「ああ」とうなずきながら馬に飛び乗るルナ。オレもハマー(馬)の背中に飛び乗って、ルナの後を追い、岩場を駆ける。
灌木の茂みを越え、砂利を散らしながらしばらく進むと、やがて濡れた岩のニオイと共に、小さな滝が現れた。
さすがに水辺は緑が多い。木々もデカくて、岩場の色も違ってる。
さっき別れた剣士たちも何組かここにいたけど、残念ながらドラゴンはいねーらしい。まあ、小さな滝壺だし。あの巨体は隠れるどころか、ここに降り立つこともできねーだろう。
「ここにはいねーぞ」
オッサン剣士にそう言われ、「みてーだな」と声を掛ける。川を囲む木々も折れてねーし、ここに立ち寄ってねーのはよく見りゃ分かった。
オレらの目的は、違う場所だ。
細い滝壺を見上げると、幾筋もの細い水が、あちこちからちょっとずつ落ちてんのが分かる。
大雨になると、これのどれかの水流が増すんだろうか?
ミーハが落ちたのは、どこからだ?
「あそこから登れるぞ」
ルナに先導され、上へと続く岩場を登る。ゴツゴツとした緑褐色の岩は、足場にすんのには丁度いいけど、ビミョーに濡れててビミョーに滑る。
「前もここから登ったのか?」
ミーハには無理じゃねーか?
そう思いながらルナに訊くと、「いや、降りた」と淡々と言われる。
「ドラゴンを倒してから、慌ててチビを探しにココ降りたんだけどよ、そん時にはもういなくて……」
淡々と告げられる状況に、ミーハのことを思って胸が痛んだ。
その場にいなかったし、ミーハから聞いたのも一部だったから、ホントはどんな感じだったのか分かんねぇ。
オレには想像する事しかできねぇ。
けど、必死にミーハを探しただろうルナには悪ぃけど、見付かんなくてよかったとも思う。
あん時ミーハが落ちなけりゃ、そんでルナに見付からず、そのまま下流まで流されなきゃ、オレとの出会いはなかった。
ミーハやルナにとっては不幸な事故だったかも知んねーけど、オレにとっては奇跡でしかなくて。
だから、「大変だったな」なんて慰めも、口に出すことはできなかった。
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