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コトが終わって腕枕でまったりしてから、ミーハの魔法で風呂に入った。
魔法は便利だ。
「ホットウォーター!」
ちょっと掠れた声で呪文を唱えただけで、熱々の風呂のできあがりだった。まあ、攻撃魔法なだけにちょっと熱過ぎではあったけど、水で埋めりゃ問題ねぇ。
水で埋めんのに「水球」使おうとした時はさすがに止めたし、バカじゃねーのかって呆れたけど、そういう抜けたトコも愛おしい。
ああ、ミーハだなぁってしみじみ感じて、すげー嬉しかったし楽しかった。
狭い浴槽は、2人で入ると更に狭い。けどその狭さも久々で、こんなんだっけって思うと懐かしい。
「今度は記憶はなくなってねーの?」
体を洗ってやりながら訊くと、「んっ」ってこくりとうなずかれた。
「魔法も?」
「忘れて、ない」
にへっと嬉しそうに笑うところが、コイツらしい。
魔法が大好きで、呪文を1つ覚えるごとに、すげー嬉しそうにしてたっけ。その分オレの財布はかなり傷んだけど、まああれも必要経費だ。
200以上の魔法を使えるっていう、今のミーハが本来のミーハ。オレ1人じゃ、そんなに魔法書買ってやれなかったし。魔法を忘れねーで使えるならラッキーだろう。
体を一気に乾かすこともできるらしい。
「ホットエアー!」
「ちょっ……」
止める間もなく「温風」が吹き荒れて、体中の水気を一気に飛ばす。ついでに部屋ん中のモノも一緒に吹き飛ばされたけど、まあミーハだし、想定範囲だ。
どうも王都のシーン本家は強固でデカいから、こんくらいの「温風」じゃ騒ぎにもならねーらしい。
「だからってなぁ……!」
ギリギリとゲンコツをこめかみにねじ込んで叱ると、ぴぎゃーと泣いてはいたけど、ちっとも反省の色が見えねぇ。
でも、それでこそオレのミーハだとも思う。
ミーハも久々の痛いお仕置きに、ちょっぴり嬉しそうだ。こめかみを両手で抑えてうずくまりながら、「う、へ」って笑みを浮かべてた。
「もうちょっと寝るか? それともメシ食いに行く?」
「メ、シッ」
きらーんとデカい目を輝かせてんのが可愛い。ベッドではあんなに色っぽかったのに、台無しだ。
「よだれ出てんぞ」
ニヤッと注意してやりながら、魔法で乾いたふわふわ頭をそっと撫でる。
素直にオレに身を預けてくれるトコが、ああやっぱミーハだなって思えて、取り戻したんだって実感が湧いた。
王都近くの荒野やオアシスで、オレを見上げてじわーっと赤面してたミーハも可愛かったけど、こんな風に気を許した態度で抱き着いて来られる方がやっぱ嬉しい。
また1から始めてもいいかって思ってはいたけど、思い出はなくなんねーし。元通りに戻れてホッとする。
「じゃあ、服着たらメシ行くか」
さっきの「温風」で吹き飛ばされた服を拾い上げ、ミーハに渡しつつ自分のも拾う。
下着とズボンを身に着けた時――ドンドンドンドン! ドアが激しく叩かれて、外から「アル!」と呼ぶ声が聞こえて来た。
「アル! いるか!? アル!」
ドンドンドンドン。容赦なくドアを叩きながらオレを呼んでんのは、タオみてーだ。
「服着とけ」
ミーハに指示をして、上半身裸のまま「おー」と答え、鍵を開ける。
ドアを開けた途端、それがバッと外から大きく開かれて、驚く間もなくタオが中に飛び込んで来た。
「よかったーっ!」
そう言われて飛びつかれ、そのまま首を絞められる。
「心配しただろ、バカ! 無事なら知らせろよ!」
どうやらスゲー心配かけてたみてーだ。ロックドラゴンを討伐した後、滝壺周辺を探してくれたって聞いて、さすがに悪かったなと思った。
意外にも、ルナも一緒に探してくれたみてーだ。ドアの外にはヤツもいて、不機嫌そうに仁王立ちになってた。
「ほら、コイツが簡単にくたばる訳ねーだろ。ぜってー家に帰ってると思った」
「ホントだよな、まったく」
天才剣士2人に嫌味を言われ、「悪い」と素直に謝っておく。
「アル、君?」
浴室のドアの陰からミーハがちょろっと顔を出すと、タオとルナが揃ってぽかんと口を開けた。
「服着たか?」
サッとミーハの元に戻り、肌が出てねーか確かめる。
いくら男同士、トモダチ同士っつったって、風呂上りの恋人の体を見せてやる気にはなんねぇ。しかもミーハの胸や首筋には、オレのつけた痕が色々残ってるし、尚更だ。
「ミーハ!? お前も無事だったのか?」
タオが目を見開いて、オレとミーハとを交互に見比べる。
「ああ、ミーハの魔法でな」
ミーハの肩を抱き、2人の前に押し出すと、ミーハは照れ臭そうに頬を染めて、「オレ、無事」って笑みを浮かべた。
そんなミーハを見て、はあーっ、とデカいため息をついたのはルナだ。
「チビ、心配させんなよ。魔法の光は見えたけど、ヒヤッとしたぞ」
呆れるようにそう言って、ミーハの頭をわしゃわしゃ乱暴に撫でるルナ。
「う、ご、ごめんな、さい」
されるがままに撫でられながら、ミーハも気まずそうに謝ってる。
2人の様子を見て、前にミーハとルナとの会話にすげー嫉妬したのを思い出す。あん時の焦りと苛立ちは、もしかしたらその後の事を予測してたせいかも知んねぇ。
今だって、そりゃ面白くはねーけど、のんびり眺めていられるだけの余裕はあった。
何もかも思い出してもミーハはミーハで、オレの想いに変わりはねぇ。
そんで、ミーハもオレを好きだって分かる。
「思い出したのか?」
タオにぼそりと訊かれてうなずくと、タオは「そうかぁ……」ってしみじみ笑って、それから陽気にミーハの肩に飛びついた。
「ミーハー、よかったなーっ!」
「うわ、タオ君……」
にへっと緩んだ顔で、忘れてたトモダチの顔を見るミーハ。
「なんだ、チビ、思い出したのか?」
強気な顔で、またミーハを撫でようとするルナ。3人の天才の様子を眺めながら、ふとデザートライオンの討伐のことを思い出す。
初めての赤枠討伐、初めてのデザートライオン、苦戦、重傷、そしてミーハの喪失……。ほんの数ヶ月しか経ってねーのに、もう随分昔のことみてーだ。
今ならもう、デザートライオン10頭に囲まれたって、そう焦るとも思えねぇ。
あの失態を思い出すと、やっぱ胸が痛むけど、それはもうどうしようもなかった。ただ、2度とあんなヘマはやらかさねぇよう、胸に誓うだけだった。
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