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自分の部屋もちゃんとあるっつーのに、ミーハは客間でオレと一緒に寝るつもりみてーだ。なんでかと思ったら、部屋が散らかってるかららしい。
部屋が散らかってる、って。その言い訳がすげー可愛くてちょっと笑えた。
「散らかっててもいーから、見せてよ」
ニヤッと笑いながら頼むと、「う、うえ……」ってうろたえてて、それも可愛い。
けど、案内された部屋の散らかり方は可愛くなかった。
部屋はオレんちの全部足したよりも広くてスゲーってなったけど、あっちこっちに服の山はあるし、本の山はあるし、呪文書の山はあるしで、散らかり方がハンパねぇ。
一緒に住んでた時は、そんなに散らかさなかったと思うけど……よく考えりゃ、片付けは自然とオレがしてたような気もする。
散らかす程の着替えもなかったし、呪文書もまあなかったよな。
「お前、ちょっとは片付けろ!」
ビシッと叱ると、ぴゃあっと急いで片付け始めたけど、部屋が広いとさすがに掃除も大変みてーだ。
部屋を片付ける魔法なんか都合よく存在したりはしねーようで、地道に本を本棚に戻すしかねぇ。
「部屋が片付いたら、荷造りもしろよ」
片付けを手伝いながらのオレの言葉に、ミーハが嬉しそうににへっと笑う。
「あ、分かってると思うけど、あんまたくさんは家に入んねーぞ」
「うんっ」
そこで深くうなずかれるとビミョーだけど、事実だから仕方ねぇ。それに家がデカけりゃいいってもんでもねーのは、ミーハ自身が証明済みだ。
部屋の片付けをさせんのは、この部屋とさよならするって意識を持たせてぇって思いもある。
そりゃ、王都に2度と来ねぇって訳でもねーし、王都からは楽に「帰宅」できるだろうから、時々は里帰りさせてやってもいーけど、ここに住まうのはおしまいにしてぇ。
「服、カバンに詰め、る」
「おー、ゆっくりでもいーぞ」
デカいカバンを部屋のどっかから持ち出して、そこにぎゅうぎゅうと色んな物を詰めてくミーハをじっと見守る。
「下着も忘れんなよ」
からかうように言ってやると、カーッと真っ赤になってて、可愛いなとしみじみ思った。
その夜はミーハの希望通り客間で一緒に寝た訳だけど、さすがにセックスはしなかった。
布団の中でイタズラを仕掛けると、猫みてーにフーフーと赤い顔で威嚇されたっつーのもある。
「じ、じーちゃんちじゃ、ダ、メ!」
って。子猫の威嚇なんか可愛いだけだったけど、まあ家に帰ってからたっぷり可愛がってやればいいだけだし、もうガッつく必要はねぇ。
それにはミーハのじーさんを納得させなきゃいけねーだろうけど、それについてはあんま心配してなかった。
そりゃまあオレ自身強くなったっつー自信はあるけど、そういう問題じゃねぇ。じーさんとミーハとの関係を見て思ったことだ。
オレにはもう血縁は誰もいねーからよく分かんねーけど、多少ギクシャクしてようと、ミーハとじーさんは「家族」なんだろうと思う。
すれ違ってても、愛情のかけ方を間違ってたとしても、孫を思う気持ちに嘘はねーんじゃねーだろうか。
だったら……ミーハの幸せがどこにあるかも分かるハズだ。
ミーハはオレが幸せにする。
ミーハが笑って過ごせる場所は、ここじゃなくてオレの側なんだって、あのじーさんにちゃんと理解して欲しかった。
じーさんからの試練は、予想した通りその翌日に行われることになった。
朝メシの後、使用人がノックと共に客間に来て、「ご当主がお呼びです」ってオレとミーハとを連れてった。
「ミーハ、この男を本当に選ぶのか?」
じーさんは不機嫌そうに色々言ってたけど、ミーハの意志は当然固い。
「オレ、アル君と一緒がいい」
キッパリとじーさんに告げるミーハは、いつものおどおどがなくて、自信に満ちてるように見えた。
オレの愛情も、じーさんの愛情も、疑ってなさそうな顔だ。
ほとんどの記憶を失くしてた間、ミーハはいつもキョドってたり怯えてたりしてたけど、それは多分、記憶と一緒に自信すら失くしてたせいだったんだろう。
オレとのことを忘れちまった後だって、こんなに自信に満ちてはなかった。
今のミーハこそ、完全なミーハだ。
前のミーハとは違ってるけど、ミーハであることには変わりねーし、不必要に怯えてキョドってるより、胸を張って笑ってる方が断然イイ。
じーさんだって、きっと分かってるんだろう。今のミーハこそがホントのミーハだって。
けど、だからって簡単にオレとのことを許すこともできねーんだろう。
いや、簡単に許せねーのは、可愛い孫の巣立ちだろうか?
「ワシを認めさせてみろ」
不機嫌そうにむうっとした顔が、何となくミーハに似てておかしい。ちっとも可愛くねーけど、やっぱ血縁なんだなと思う。
「受けて立ちます」
ニヤリと笑いながら宣言し、ミーハの肩を抱き寄せる。
ミーハもにこっと笑いながらオレにぎゅっと抱き着いて来て、さり気に見せつけてんのが可愛かった。
一体どんな試練をオレに課すのかと思ったら、屋敷の屋上に連れて行かれた。
「ここ、魔法の訓練、するんだよっ」
ミーハの説明に、「へー」とうなずきながら周りを見る。
どうやら攻撃魔法の練習に使う場所らしくて、屋上なのに壁が随分高くて分厚い。そんで広い。
よく見りゃ壁にはあちこち抉れた痕があって、成程なぁと思った。
まあ確かに考えてみりゃ、いきなり実戦で攻撃魔法使うのは危険だよな。特にミーハは攻撃過多な傾向があって、モンスターに対して容赦なかった。
「殲滅せよ」だっけ? 記憶喪失中のミーハから聞いた、スパルタ教育の断片を思い出し、ちょっとだけゾッとする。
それはいーけど、ここで何を?
もしかして、魔法攻撃を受け流せっつーんじゃねーよなぁ?
てっきり前ん時みてーに、赤枠懸賞依頼をこなせっつーのかと思ってたけど、わざわざ場所移動したってことは、違うんだろう。
そう思いながら、油断なく周りを見回してると――。
「おお、スッゲー! 広ーっ!」
聞き覚えのある能天気な声が聞こえ、振り向くとタオとルナがいて、一瞬意味が分かんなかった。
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