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なんでタオとルナがいんのかと思ったら、どうやらオレと模擬戦させるためだったらしい。
「お前がどれだけやれるのか見せて貰おう」
屋上に運ばせたイスにどっかりと座り、じーさんが威厳たっぷりにオレに言った。改めて見せる支配者の顔は、昨日孫に見せてたのとは大違いだ。
けど、オレとしてはミーハに優しくしてくれんなら、どうでもいい。
赤の他人のじーさんに優しくして欲しいとは別に思わねーし、実力を認められりゃいいだけだ。
「まさか2対1じゃねーよな?」
腰の剣を抜き、ルナやタオと共に屋上の中心へと歩み寄る。
ルナもタオもそれぞれの剣を抜いて、自信たっぷりに笑ってる。まさかと思ったけど、ホントに2対1みてーで、それはさすがにマジかよと思った。
ルナとは稽古したことはねーけど、あんなデカいなりしてデカい剣担いでるくせに、攻撃が素早いのは見て知ってる。モンスターと戦ってる最中なんて、身にまとった黒い鎧とオーラの残像しか見えねぇ。
タオの方は、言うまでもねぇ。双剣使いだから攻撃も2倍、身軽さだってルナより上だし、ハイテンションで、戦うことを心から楽しんでんのがよく分かる。
「黒の疾風」と「赤い閃光」、どっちもオレたち賞金稼ぎの間じゃ有名だ。
オレだって、ミーハがつけてくれた二つ名はあるけど、まだまだ周知には程遠い。
足元にも及ばねぇって程の実力差はねーと思うけど、同等だなんてうぬぼれる気にはなんねーし、天才2人相手だと荷が重い。
けど、これが試験だっつーならやるしかねぇ。
「手加減して欲しーか?」
ルナにニヤリと笑われて、「いらねーよ」つって笑い返す。
「マジ? オレも手加減しなくてイイ?」
嬉しそうにニカニカ笑いながら双剣を構えるタオは、オレやミーハの友人だって事実を都合よく忘れることにしたみてーだ。
「お前は遠慮って言葉を覚えろ」
オレの嫌味に「何だソレ?」ってキョトンと首をかしげるタオ。わざとらしい仕草には可愛げも勿論なくて、そんで、やっぱり遠慮もなかった。
「行くぜ!」
そんな気合の一声と共に、赤い閃光がビュアッと走る。
反射的によけると、今度はルナが大剣でオレの胴体を薙ぎ払う。
「うわっ」
とっさにジャンプして上に逃げると、視界の右にまた赤いオーラが動くのが分かった。タオだって認識するより早く、剣を伸ばして攻撃を受け止める。
双剣の攻撃を剣1本で止めるには、空中で反転して身を躱すしかなかった。
「くっ」
身をよじってタオを躱した先、着地を狙うようにルナが待ち構えてて、黒い疾風がびゅうっと唸った。
もはや風だ。あの大剣をこんな素早く振り回すとか、バケモノか。
けど、オレだって今は「蒼風」だし、攻撃が見えねぇ訳でもねぇ。避けられねぇ程ノロマでもなかった。
「おりゃっ」
「食らうかっ」
ルナの大剣をギリギリで交わし、ジャンプして剣を振り切る。
ガキン、と剣の打ち合う音が響き、剣を握る手に衝撃が走る。勿論、切り結ぶ程ゆっくりはできねぇ。素早く剣を引き、身を躱し、床を蹴り、頭上からルナに襲い掛かる。
オレの上からの攻撃を、難なく避けて躱したルナ。
「蝶の方が速ぇぞ」
そんな嫌味と共に大剣を突き上げられ、その剣を蹴ってくるりと回る。
勿論、タオだってのんびり待っててくれはしねぇ。
「いただき!」
陽気な声がすぐ真横から聞こえ、目の端を赤い閃光がかすめてギョッとした。
息を呑みつつ反射的に剣を振り上げて、タオからの一閃を防ぐ。直後、ごろりと床を転がって、ルナからの振り下ろしを避ける。
「あってめぇ、避けんなっ」
そんな文句を言うルナは、まだ余裕そうでムカつく。こっちは悪態をつく暇もねーっつの。
「避けんに決まってんだろ!」
一旦距離を取り、汗をぬぐって再び駆け出し、剣を振るう。
難なくガキンと受け止められる攻撃に、らちが明かねぇって舌打ちが漏れる。やっぱ天才2人相手に2対1は無謀だっつの。
けど――2対1じゃなかったら?
身を躱し、タオの攻撃を避けてジャンプして、ルナに飛び掛かりながら叫ぶ。
「ミーハ! 水!」
指示を出しながらルナの肩を蹴り、ぽんと空中に舞い上がる。同時に「ウォーター!」ってミーハが呪文を唱えんのが聞こえて、宙を蹴りながら頬が緩んだ。
バッシャーン、と派手な音を立て、容赦ねぇ大量の水がルナとタオを襲う。
「水球」でも「水槍」でもねぇ、ただ水をぶっかけるだけの魔法だけど、不意を突くには十分だ。
「うわっ、チビッ!」
「ズリーぞ!」
びしょ濡れの2人が喚くのを聞きつつ、床に降りてオレは素早くミーハの元に駆け寄った。
「『温風』!」
「ホットエアー!」
オレの指示と共に唱えられる「温風」魔法。ぶおおっと容赦ねぇ温風が屋上に吹き荒れて、濡れネズミの2人を一瞬で乾かす。
勿論、乾かすだけじゃなくて竜巻が沸き起こったけど、さすがに広い屋上だと、家の風呂場程のダメージはなかった。
「ははっ、さすが」
恋人の頭を撫でて誉め、白ローブに包まれた細い肩を抱き寄せる。
「ズリーぞ!」
「ズルくねーよ!」
喚くタオに言い返し、「タオを足止め」と指示を出す。勿論、ミーハは迷わなかった。
「エアボム!」
ぬるい魔法の詠唱を聞きつつ、オレもルナに走り寄る。
ルナが「はん」と不敵に笑い、大剣をびゅっと横なぎに振るった。その攻撃をギリギリで除け、床を蹴る。
「蝶より遅いっつの!」
オレが空を駆けるのを見計らったように、ルナが大剣を振り上げた。けどオレは逆に姿勢を低くして前に飛び、ルナの足元に転がり込んだ。
大剣を上に振り上げた瞬間の、がら空きの胴体が目の前に迫る。
相手の力を利用して、懐深くもぐり込むのがオレの本来の剣術だ。
「下だよ!」
言いながら、黒の鎧に包まれた脇腹を、剣の先でコツンと叩く。
モンスターじゃねーから、深く突き刺すような真似はしねぇ。強化されてるだろう天才剣士の愛用の鎧相手に、切れ味を試せる程の名剣でもねぇ。
「勝負あり!」
誰かの声がして、模擬戦の終了を知る。それと同時に真上から黒鎧の手のひらが降って来て、「このやろう」って頭をガシッと掴まれた。
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