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ルナの乱暴な祝福から逃れると、ミーハがたたたっと駆け寄って来た。
「アル君っ」
弾んだ声に満面の笑みが可愛い。まっすぐこっちに駆けて来る、オレしか見えてなさそうなトコも可愛い。
「やったな」
ニヤッと笑いながら片手を挙げ、ハイタッチを促すと、ミーハは一瞬目を見開いて、それからぺちっとタッチした。
可愛い恋人を片手で抱き寄せ、剣を収める。
自然な流れでちゅっとこめかみにキスを落とすと、腕ん中のミーハが「ふあ……」と声を上げて真っ赤になった。
ざわ、と周りにいた魔法使いどもがざわめいたけど、以前みてーに攻撃魔法は飛んで来ねーし、「無礼者」なんて言葉もねぇ。
さすがに当主の前だから大人しくしてんのかな?
その当主であるミーハのじーさんの方に目を向けると、じーさんは不機嫌そうに顔をしかめて、オレをじとっと睨んでた。
「ミーハ」
しかめっ面のまま、じーさんが孫に声を掛ける。オレの腕ん中でぴくりとミーハが顔を上げ、オレに抱き着いたままじーさんを見る。
黙ったままのじーさんに、先に口を開いたのはミーハの方だ。
「じーちゃん、オレ、アル君と一緒に行く、ね」
キッパリと告げるミーハは、相変わらずとつとつとした口調のままだったけど、以前とは違っておどおどキョドキョドはしてなかった。
背中を伸ばし、胸を張り、顔を上げて堂々とじーさんを眺めるミーハが眩しい。それはじーさんも同じなんだろう。ミーハの方を目を細めて見つめてる。
しかつめらしい顔が、わずかに嬉しそうに緩んで見えんのは気のせいか?
「本当にその男を選ぶのか?」
じーさんの問いに、「うん」と迷いなくミーハがうなずく。
「オレ、アル君と一緒なら、戦うの怖くない。どんな魔法も、使えるって思う」
どんな魔法も、って言葉は、ミーハの過去やトラウマを考えると意味深だ。
「『転移』も『帰宅』もか」
「うん」
ミーハの返事に、じーさんは眉間にしわを寄せたけど、その口から反対意見が出ることはなかった。
「……何かあれば、いつでも帰って来なさい」
ため息と共に告げられた言葉に、ミーハがぱあっと笑顔になる。
「じーちゃん、ありがとう!」
キラッとした笑みを向けられて、じーさんが「うっ」と胸を抑えた。確かにミーハの満面の笑みは可愛いし、破壊力抜群なのは間違いねーから、無理もねぇ。
「ここにも『帰宅』で帰れるだろう?」
ほんの少し期待を乗せたじーさんの問い。けど、ミーハは「それは無理」と無情にも首を振る。
ガーン、とした顔を一瞬見せたじーさんには気の毒だけど、ミーハはとことん無邪気で素直で、だから余計に残酷だった。
「オレの帰る場所、は、アル君の隣だけ、だから」
恋人の可愛い宣言に、ニヤッとオレの頬が緩む。
「ジュニア様! おじい様に向かってそのような口を……」
じーさんの隣にいたオッサン魔法使いが、説教めいたことを口にしたけど、それはじーさんが片手を挙げて黙らせた。
「また遊びに来る、ねっ」
じーさんに小さく手を振って、ミーハが軽く杖を構える。
「テレポート!」
『転移』の呪文が聞こえたと思うと、パアッと目の前に白い光が広がって――次の瞬間2人きりで、王都の元の広場に出た。
ルナとタオは、と一瞬だけ思ったけど、騒がしいバカたちと4人より、可愛い恋人と2人きりの方がイイ。
「もういーの?」
再び抱き寄せてこめかみにキスすると、ミーハはふひっとくすぐったそうに肩を竦めた。
「いいよっ」とうなずく顔には、迷いも悔いもなさそうだ。
けど確かに、「転移」さえできるならいくらでも遊びに来れる訳だし。永遠の別れって訳じゃねーんだから、こんくらいあっさりでもいいんだろう。
「そうか。じゃあ、ハマー(人間)の店でもひやかしに行くか」
「ハマちゃん、のっ?」
オレの提案に、ミーハが顔を輝かせて喜ぶ。
オレ以外の男に会うのが、そんなに嬉しいのかと思うとムカッとするけど、ハマー(人間)は昔も今もミーハの仲間だから、ちょっとくらいは寛容になれる。
今頃あのごちゃっとした店で、西山で獲ったトカゲでも売ってんだろうか?
「アイツの店、結構面白ぇぞ」
白いローブの肩を抱き、恋人とゆっくり歩き出す。
「おーい、ミーハ、アルー!」
後ろから声を掛けられて振り向くと、タオが手を振りながらオレらの方に駆けて来る。
「なあ、3人で狩り行こーぜ!」
オレとミーハの肩に両腕を絡ませて、いつも通り陽気にタオがオレらを誘った。
「ウッディベア行こう! ボス猿いなくなって、増えてるらしーぞ! ボス熊いるかも!」
嬉しそうにニシシと笑うタオに、「イヤなこと言うなよ」とちょっと呆れる。ウッディベアボスって、どんだけデカくなるんだろう?
想像して、楽しいかも知んねーとか思い始めてる自分がイヤだ。
「ボス、クマ」
目をキランと輝かせてるミーハは可愛いが、必ずしもボスがいるとは限んねーし、戦力過多になりそうで怖ぇ。
「まずはハマー(人間)の店! それから防具と剣の強化! クマ狩りはその後だ!」
ガキみてーに騒いでるミーハとタオの頭を両手で抑え込み、懐かしさに笑えた。世話は焼けるけど、隣にミーハがいるって思うだけで気分が違う。
こんな騒がしさなら悪くねぇ。
地元にいようと王都にいようと、オレらはオレらだし、ミーハはミーハだ。それさえ忘れずにいれば、この先も楽しくやって行けるだろうと思った。
「転移」の呪文の後で到着したのは、見覚えのある開けた河原。足元に広がる小石を踏み締めると、ジャリッと聞き覚えのある音が鳴る。
「おっ、クマ発見!」
タオの嬉しげな声に目を向けると、やや下流のゴツゴツした岩のところに、ウッディベアが2頭いた。
「1匹もーらい!」
そんな勝手な宣言と共に、「赤い閃光」がサッと飛び出す。
「オレらも行くぞ」
「うんっ」
頼もしい恋人と一緒に駆け出し、タオを追うように熊を襲う。
ガアアアーッ。ウッディベアの1頭が立ち上がり、オレらを威嚇するように手を広げた。
けど、そんな威嚇でオレらが今更怯むハズもねぇ。
「ミーハ、『氷槍』!」
「アイスランス!」
オレの指示にミーハが呪文を唱え、氷の槍がキラッと輝きながらクマの胸を貫いた。
その間にタオも1頭仕留めてたけど、悠長に成功を喜んでる暇はねぇ。
「3頭来たぞ!」
タオの忠告にうなずきながら、剣を抜いて岩を蹴る。
ひらっと宙に躍りかかると、ちょうど真下にクマが来た。びゅんっと剣を一閃すると、どうっとウッディベアが倒れ込む。
「アイスランス!」
落ち着いたミーハの呪文、視界を横切る赤いオーラ。オレも負けじと地を蹴って、3頭めの獲物に飛びかかる。
満足するまで狩りをしたら、王都に戻って獲物を売り、討伐の賞金を貰う。
基本は3人で行動するけど、たまにルナが混じって来てウゼェ。ルナが混じるとオレの獲物が確実に減んのがウゼェ。
金を稼いだら武器や防具をメンテして、美味いメシ食って仲間と陽気に騒ぐのが、オレら懸賞稼ぎの生活だ。
そんで、たまに「帰宅」の呪文で家に帰り、ミーハと2人でのんびりと過ごす。
勿論、のんびりするだけじゃねーし、むしろ心地よい運動することの方が多いけど、恋人なら当然だし、ミーハが可愛いから仕方ねぇ。
「アル君、ずっと一緒、だね」
白い頬を赤く染め、オレに抱き着く可愛い恋人を受け止める。
「当然だろ」
ニヤッと笑ってちゅっと軽くキスすると、ミーハは顔をますます赤くして、幸せそうに笑った。
(終)
後書き:ここで一旦2人の冒険は終わります。長い時間をかけての長編、お付き合いありがとうございました。
6年前からの作品ですので、前半色々と読みにくい部分があったり、表記揺れがあったりすると思います。今後また1話から読み直し、地道に修正を加えて行きますので、ご了承ください。
Bloveの機能上、修正も「更新」として出る恐れがあります。ご迷惑をおかけしますが、これからもよろしくお願いします。
はる夏
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