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ミーハは夕方近くまで目を覚まさなかった。
その間、場所をオレ達の家に移して、ルナと色んなことを話し合った。
タオはもう関係ねーのに、ずっと付き合ってくれた。
「関係なくねーよ。ダチだろ、お前とも、ミーハともな!」
そう言ってニカッと笑って貰えて、何かスゲーホッとした。タオには裏表がねぇ。単純でバカでフリーダムだけど、信頼できる。
ルナも……信頼できるんだろうか?
「オリャー、チビの保護者から依頼受けてっから、とにかくチビの現状については報告しなきゃなんねぇ。一応心配してるしな」
ルナの言葉に「一応かよ」と思いつつ、口を挟まずに1つうなずく。
「しっかし、記憶はともかく魔法まで忘れたって知れたら、じーさん大激怒だろーなぁ」
はあー、と大きなため息をつくルナは、マジ憂鬱そうだ。ミーハの祖父は、かなり厄介なじーさんらしい。
魔法のスパルタ教育、周りを囲む冷たい大人、色のない世界――。
ミーハのわずかな記憶を裏付けるように、ルナは知ってるだけの事情を教えてくれた。
「チビの家、シーン家ってのは、代々続く魔法使いの名門の家柄なんだってよ。オリャー剣士だし、魔法使いの世界のことはよく知んねーけど、少なくとも首都に限って言や、そこそこの権力は持ってるみてーだな」
「名門か……」
ハマー(人間)が言ってたよな、ミーハの家は駆け落ち婚だって。そんでミーハが8歳の時、遠い親戚の家に引き取られたらしい、って。
遠いってのは多分、遠縁って意味じゃなくて、距離的な意味だったんだろう。
けど、ミーハの父親と母親の話を、ミーハの口から聞いたことはねーらしい。
タオが、真面目な顔でルナに訊いた。
「ミーハ、どうなると思う?」
「あー、まず間違いなく監禁されて、1から魔法の覚え直しだろうな。寝る暇も多分、貰えねーぞ」
それを聞いて、ギョッとした。
「監禁!?」
っつーことは、まず間違いなく、こっから連れ戻されちまうってことか!?
ミーハの意思も関係なく?
「んなこと許せねぇ!」
ガタッと立ち上がったオレを、タオが横から冷静に止めた。
「アル、落ち着け」
ぐいっと腕を掴まれ、座らされる。
「お前がヤケ起こしたって仕方ねーだろ。それより、何か方法がねーか考えろ」
タオの言葉に、ルナもうなずいてる。
「ワリーけど、こればっかりは分が悪い。何しろ、じーさんの直系の孫だし。記憶喪失な上、まだ16だから、ちゃんとした保護者が必要だろ? それにチビは優秀だかんなぁ、シーン家がやすやすと手放す訳ねーわ。記憶の戻ったチビが、どうしてもオメーと一緒に暮らしてぇっつーんなら、多分別だと思うけど……そうでなきゃ、『家出』か『誘拐』だって言われてオシマイだろーな」
ルナの言葉は全部正論で、言い返すこともできそうになかった。
鳥肌が立つ。
何があっても、ミーハを支えるって自分に誓ったのにな。アイツが過去を思い出すたび、オレが嫉妬したり動揺したりすんのは、やめるって。
ずっとミーハの側にいて、アイツをしっかり支えながら、記憶が戻んのを見守っててやるつもりだった。
記憶が戻っても、戻らなくっても。アイツの家は、ここだと――オレと一緒に住むこの家だ、と、そう思ってたのに。
こんな――「監禁」とか「保護者」とか「正当な権利」とかで、奪われるかも知んねーとは思ってなかった。
「……くそっ」
悪態をつき、テーブルをガンと叩く。
「何か他にねーのかよ?」
すると、ルナが口を開いた。
「ダメ元で、懸賞討伐行ってみねーか?」
って。
「はあ!? なんで?」
強く訊き返したオレの横で、タオは「おー、いーな、それ」とうなずいてる。
「名案かも知んねーぞ、アル!」
とか言ってっけど、いや、んな訳ねーだろ。
バカの考えは飛躍しすぎて、常人には理解できねぇ。
「だから、なんで?」
「だから、証明すりゃいーんだって。そーだろ?」
タオに話を振られたルナは、「そう、そう」と言った。「証明だ」と。
「懸賞討伐行って、証明すんだよ。『無理に魔法を思い出せなくても、こんだけチビは役に立ちます』って。『だから、今のまんまでいいと思います』って!」
それがうまくいくとは限らねーけど……他に何も思いつかねーのは確かだった。
3日後、沙漠にてデザートライオン10頭の討伐。メンバーはルナとタオとミーハとオレだ。
「大丈夫、オレもついてっし」
タオが陽気にギャハハと笑ったけど、オレは「ああ」って無理矢理笑みを浮かべるしかなかった。
これが、オレの試験も兼ねてんだろうってことは、言われなくとも分かってた。
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