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ミーハのうなされる声に真っ先に気付いたのは、当たり前だけどオレだった。日の暮れ始めた夕方、ねっとりと西の空が染まる頃。
「ミーハ!?」
ハッと立ち上がり、寝室に向かう。タオとルナも、すぐに追って来た。
「どうした!?」
返事はねぇ。ミーハはまだベッドの上で、首を左右に振りながら、うんうんと唸ってた。そして。
「あっ、ダメ! 無理です、逃げてっ、ルーナさん!」
前に聞いたのと、似たようなセリフを口にした。
ヒュッと息を呑んだのは、ミーハか、オレか? それともオレの後ろに立つ「黒の烈風」か?
「サンダーレイン!」
ミーハは叫びながらガバッと起き上り、まばたきをして呆然とした。
はぁ、はぁ、と肩で荒く息をしてる。
ミーハ、と名前を呼ぶのが一瞬遅れた。
「ここ……?」
遠くを見るような目つきで、ミーハは周りを見回しながらベッドから降りた。
「あれ? せ、赤竜、は?」
って。寝ぼけてんのか、「杖も、ない」って焦ったようにキョドってる。
ホントに――寝ぼけてるだけか?
ぞわっと鳥肌を立てて立ち尽くしたオレの後ろで、ルナがははは、と笑い声を立てた。
「なに寝ぼけてんだよ、チビ」
「る、ルーナさん……」
ルナのことを「ルーナ」って呼んだことに、当のルナ本人はまるで気付いてねーらしい。ミーハのふわふわの猫毛を、デカい手でわしゃわしゃと撫でている。
「うお、夢……?」
ミーハはキョドリながらこっちを見て、大きな琥珀色の瞳を見開いた。オレの顔を見て、「あっ」つってぱぁっと笑顔になる。
「あ、アル、君っ」
いつも通りにそう呼ばれて、どしんと抱き付いて来られて――オレがどんだけホッとしたか、きっとミーハには分かんねぇだろうな。
はぁー、と腹の底から息を吐く。
いつものミーハだ。当たり前だよな。
「何か思い出したか?」
ギュッと抱き締めながら訊くと、「う、うんっ!」と元気よく返事をされた。
「オレ、落ちた」
って。
「ら、『雷雨』使った後、山だった、から、降った雨で地面が川みたいになって、滑って落ちた」
「おい……」
簡単に言ってるけど、それ、かなりヤベー事態だぞ?
骨が折れてなかったのが不思議なくらいだ。いや、体が柔らかいから良かったんだろうか?
「記憶喪失くらいで済んで、よかったな、ミーハ」
タオも同じこと思ったらしい。陽気にゲラゲラ笑って、ミーハの背中をバシンと叩いた。
オレがミーハを拾った日、朝から降ってた大雨は……ミーハが降らせたものだったみてーだ。
「あの後、ぶ、無事だったですか、ルーナさん?」
ミーハが視線をルナに向けた。
「おー、この通り。赤竜は雨のお陰で一掃できたし、巣も水浸しになった。お前こそ、無事でよかったな」
ルナは笑って、ミーハの頭をまた撫でた。ミーハは嬉しそうに目を細め、オレにするように、ふひっと笑った。
そこにいたのは、「チビ」だった。ルナの相棒の、「シーン・ジュニア」。
嫉妬に狂いそうだった。
オレ以上の絆を、見せつけねーで欲しかった。
けど、何があっても側で支えるって誓ったかんな。オレは黙って、2人の側から1歩退いた。
タオはオレの心境に気付いてんのか気付いてねーのか、ギャハハハとハイテンションで笑いながらミーハに訊いた。
「魔法使ってねーのに記憶思い出したの、初めてじゃねぇ? じゃあさ、逆に『雷雨』、今だったら使えんじゃねーの?」
「うお、『雷雨』っ」
ミーハのデカい目がきらんと光る。それがいつも通りで、なんか余計にグサッときた。
「なぁなぁ、使ってみよーぜ」
タオが笑いながらそう言って、ミーハの肩をぐいっと抱いた。そんな2人に、ルナが「どこでだよ?」と呆れたように尋ねてる。
「荒野で!」
「荒野ぁ? バカ言うな、てめー!」
「なんでバカだよ? バカって言うヤツがバカなんだぞ!」
「近隣に大メーワクだろーが、チビ!」
「チビで悪かったな! その代りコッチは巨人並みだっつの」
「ウソつけ、だったら見せろ!」
バカ同士のバカなケンカを止めらんねーでキョドってたミーハは、不安そうにオレの方を見て、ハッとしたように抱き付いて来た。
「あ、アル、君……」
細い腕が、オレの首元にぎゅうぎゅうと巻き付く。
オレは、また深く息を吐いて、愛おしい恋人の背中を撫でた。
「他に思い出したことは?」
ドキドキしながらそう訊くと、ミーハはぷるぷると首を振った。
「滑って、落ちて、『あーっ』ってなってから、覚えてナイ」
「……そっか」
それは、安心していーんかな? ホントは残念がってやんなきゃいけねーのかな?
目の前では、バカ同士がズボンを降ろし合おうと闘ってる。
ムダにクオリティの高い真剣勝負が、バカバカしくて笑える。
そう、笑える。
「バカは放っといてあっち行こうぜ」
オレは、できるだけ自然に聞こえるように、ふふっと笑いながらミーハの耳元で囁いた。
キッチンの方にそっと2人で移動してから、ちゅっと唇に軽いキスをすると――「チビ」でも「シーン・ジュニア」でもねぇ、ミーハが眉を下げてふひっと笑った。
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