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32 デザートライオン編
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今回の討伐対象になってるデザートライオンは、普通は群れで行動しねぇ。砂漠を歩いてて遭遇すんのは、よっぽど運が悪くて1頭か2頭だ。
オレだって砂漠に行ったことくらいはあるけど、まだ実物を見たことがねぇ。それくらい珍しくて、危険なモンスターだ。
体長は平均およそ7m。体高は平均2m。
ハイランダーウルフよりは小柄だが、敏捷性に優れてて、フットワークが何倍も軽い。
体も柔らかく、しなやかで、寸時での方向転換も軽くこなす。肉食の狩人。
1頭だけでも珍しく、そんで恐ろしく厄介だっつーのに、それが10頭。
しかも、街道からそう遠くねーとこをうろついてるという。
今んとこ人間が食われたって話は聞かねーけど、馬が何頭も犠牲になってるらしい。
馬とか積荷の食糧なんかに味を占めて、街道に集まって来てんのかも知んなかった。
砂漠までは、馬に乗って1日がかりで到着した。
すぐ手前の街に夕方着いて、今日はそこに1泊。翌日夜明けとともに、討伐に向かう予定だ。
本来、デザートライオンは夜行性なのに、その10頭は街道の通行人を襲うためか、朝夕に姿を見せるらしい。
「朝のうちに仕留めきれなくても、昼間ちょっと休憩できるからな」
計画を立てたルナが、そう説明してくれた。
うちからの道中、ずっとミーハはルナと思い出話をし続けてた。
前にハマー(人間)とのやり取りで、会話から記憶が戻ることもあったからだ。
ハマー(馬)の背にオレと乗って、並走するルナと楽しげに喋る。そんな状況だから、オレも否応なく話の全てを聞かされた。
「初めて会った時のこと、覚えてっか? ケイブモス」
「うお、あの、一面のケイブモス……」
一面のケイブモス――ハマー(人間)と一緒に聞いた話を思い出す。毒蛾が襲い掛かって来たっつーアレか。
『劫火』の失敗。術者に向かって来るケイブモス。それをバッサリと切り捨てた誰かは――やっぱ、コイツだったか。ルナ・サンダー。
「あっの頃のお前はさぁ、自分のこと過小評価しててさー」
その時のミーハの連れは、親戚の誰かで……そしてたくさんのお目付け役が付き添ってて。ミーハはいつも、怒鳴られたり蔑まれたりしてたんだそうだ。
どんなに頑張っても、誉めて貰えることがなかったとか。
誉められねぇ、肯定されねぇ、認めて貰えねぇ。ミーハにとって、ルナと出会うまでの8年間は、そんな自己否定にどっぷり浸かった、暗黒の日々だったみてーだ。
もしかしたらこのドモリ癖も、その頃の経験の名残なんかも知んなかった。
「あっ、思い出した! ルーナさんあの、時、『自分でトドメを刺せ』って、言いました、よね?」
「おー、そうだぜ、オメーは優し過ぎんだよ。もっとガーッと、思い切りよくいかねーとな」
「ご、『劫火』、とかっ」
「そう、『劫火』とか。『落雷』とかな」
物騒な話を横で聞いてると、ルナのミーハへの影響がスゲー大きいのが分かる。
オレの知らねー話を、オレの知らねー顔で聞いて、嬉しそうにされてんの見ると、やっぱどうしてもモヤッとした。
「そ、そうだ、家でも、同じこといつも言われて、た。殲滅せよ、情けは無用、って。で、できないのは、覚悟がないからだ、って……」
「覚悟もいるけど、やっぱオメーは優し過ぎんだと思うぜ」
手を伸ばし、ミーハのふわふわの頭をガシガシと撫でるルナ。
ルナの言葉に、「う、へ」って救われたみてーに笑うミーハ。
けど、それでも嫉妬せずにいられたんは、ミーハがルナのことを「お父さんみたいな人」つったからだ。
そんでルナもミーハのことを……弟分みてーに扱ってっからだ。
視線に色がねぇ。
それが見て取れただけでも、今回の討伐への道中は十分にラッキーだった。
「ケイブモスより、厄介なんはケイブDフライだろーな。あいつら肉食だから、噛み付いてくるんだよ」
「あ、る、ルーナさん、噛ま、れた」
「そうそう。チビが治療してくれたんだよな。おっ、噛まれると言やぁ覚えてっか? ハイランダーウルフ?」
「あ、ち、血がいっぱい、で」
「んー、オメー大泣きだったよな」
魔法も使っていねーのに、ミーハが過去を少し思い出して、それにルナが補足していく。
ルナの補足に触発されて、また少しミーハが思い出す……。
ハマー(人間)の時に見たのと一緒だ。ただ、あん時はどっちも「ミーハ」だったけど、今回はそうじゃねぇ。
ゆっくりと、シーン・ジュニアになっていく。
オレは、それでも2人の会話を聞き続けた。「うるせー、もう聞きたくねぇ」とか、言いたくなかった。
ミーハ……。
ハマー(馬)の手綱を操りながら、オレは目の前に座る恋人の体を緩く抱いた。
馬から落ちねーように。オレから去って行かねーように。
その手首には、ギリギリ間に合った恋人の印が飾られてる。
古い杖を持つその手首に、きらりと光るオレのルビーが――ミーハをオレの側に、留め続けてくれそうな気がした。
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