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ミーハのトラウマには、もう1個あったのを忘れてた。
『怖い……』
以前、そうやって震えて泣かれたのを思い出す。『アル君がオレのミスで、ケガするのが怖い』って。
「オレ……ど、どうしよう」
ミーハはまだ胸元をぎゅっと掴んだままで、不安そうにうつむいて呟いてる。
『氷山』が破られたの、まだ気にしてるらしい。
そんだけショックだったのか? ぶるぶると震えて。青い顔して。
「けど、さっきのあれは仕方ねーだろ?」
そりゃ、『氷山』だってレアだったんだし、術のレベル自体はそれなりに強力なんだろうけど……元から苦手そうだったもんな。
オレは安心させるように笑って、ふわふわの猫毛頭をぽんと撫でた。
「心配すんな。オレはケガしねーよ。ずっとお前とチーム組んで、一緒にやってくって誓ったんだから」
そうだ、オレ達はチームだ。
ミーハの魔法にタイムラグがあんなら、その分オレが時間を稼ぐ。オレの剣が届かねぇ時は、ミーハがその分の補助をする。
残るデザートライオンは、6頭。
「オレとお前とで、3頭やるぞ。一緒にな」
けど、そうは言っても――ミーハの不安は、なかなかなくならねーようだ。
腹が減ってから、そんな悲観的になるんじゃねーか?
「まずはメシ食って、それからまた話そうぜ」
オレはまた笑って、ミーハの肩を抱き、ぐいぐいと前に押し歩かせた。
タオやルナみてーな天才とまではいかなくても、オレにもうちょっと技量があれば、こんなに心配かける事もなかったんかな?
ある意味、信用ねーってコトだよな。
もう今更遅いけど……また自分とこの街に帰ったら、タオに頼んで訓練の続きをやろう。
いっぱいメシ食って、力つけて、パワーと、そんで筋肉もつけよう。
「まずはメシだ」
ルナの背中を見ながらキッパリそう言うと、ミーハも弱々しく「そう、だね」って、にへっと笑った。
記憶がねーんだから当たり前だけど、ミーハは虹を作ってやったっつー前後のことを、あんま覚えていねーようだった。
例えば店への行き方とか、店の外観とか。
でも、なんかニオイは記憶に残りやすいんかな?
「る、ルーナさん、このニオイ……」
ふと顔を上げ、ミーハがルナに声を掛けた。
甘酸っぱい、美味そうなたれのニオイだ。ぐう、と腹が鳴る。サソリかも知んねーとしても、腹が鳴る。
ミーハも、ほらな、やっぱ空腹だったんだろう、腹を押さえて眉を下げてる。
「言われてみりゃ、この辺、見覚えある気がすんなぁ」
ルナはそう言ってキョロキョロと周りを見回し、今いる通りから1本逸れた細い路地を見て「あーっ!」と大声で叫んだ。
「あったぞチビ、ここだ。なっ」
ルナの言う通り、その路地にはこじんまりした食堂があって、そこから美味そうなニオイが漂って来てる。
サボテンとサソリをモチーフにした木製の看板が掛かってて、確かにその2つは、この店の名物らしかった。
店内には客がまあまあ多かった。意外にも繁盛してるらしい。
「サソリの唐揚げ6人前!」
ルナの注文を聞いて、「はあ?」と一瞬耳を疑う。6人前って。誰がどんくらい食うんだっつの。
店の女将も驚いてた。
「まあ、まだ朝ですよ」
オレらは一仕事した後だけど、まだ昼前だもんな。
ミーハはっつーと、何か色々思いだして来たみてーで、店の中を見回してる。
「見覚え、ある」
そんな風に呟いては、時々遠い目をして過去を見る。
ミーハのその表情を見ると、また胸の内に暗雲が立ち込めそうになったけど――途中、ミーハにギュッと手を握られて、拠り所にされてるみてーで嬉しかった。
そうしてる内に、サソリの唐揚げの山盛りが来た。
甘酸っぱいたれのいいニオイだ。このたれには鶏肉の方が合いそうな気もするけど、どうなんかな? この店にはねーんかな?
紅褐色のサソリは、油で揚げられてキレイな赤に染まってた。殻ごと食べられるらしい。
エビの仲間かと思ったら、クモの仲間みてーだ。身もあんま入ってなくて、食感が軽い。
「素揚げでもいけんじゃねーか?」
冗談半分で言ったら、ホントに素揚げ料理もあったらしくて、「よかったらどうぞ」って、1個サービスしてくれた。
それがそのまんまの外見だったから、マジ、どうしようかと思った。けど……なんか、美味かった。
食事の後、ミーハだけ階段を昇って、2階のガキんとこに会いに行った。
また『雨』を使って、虹でも見せてやんのかな?
「アル君、も、行く?」
ミーハには一応誘われたけど、「コーヒー飲みてぇから」つって遠慮した。
「じゃ、じゃあ、オレ、ちょっと上に行ってくる、ね?」
ためらいながら立ち上がったミーハに、「おー」と返事して手を振ってやる。
コーヒーがどうとかっての、口実だってバレたかな? ミーハはちらちらとオレを見ながら、店の奥にある階段を上がってった。
その姿が見えなくなってから――ルナの方に目を向ける。
「ミーハには内緒で、アンタに訊きて―事があんだけど」
なんでミーハがあんな風に、オレのケガを心配すんのか。そのトラウマの訳を知りたかった。
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