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ルナはオレを家まで送り届けた後、「じゃーな」つってあっさりと去った。
「首都に来ることがあったら、オレんちに寄れよ?」
「あー。勿論そうする」
そう言うと、ルナは鼻でふんと笑った。
怪我が治り次第、首都に出向くだろうってバレバレみてーだ。
でもまあ、当然か。ルナもタオも、オレのミーハに対する執着とか思いとか、側で見て知ってただろうし。
当たり前だけど、そう簡単にミーハのコト、諦めるつもりはねぇ。
オレがケガすんのをスゲー怖がってたミーハ。
泣きながら『治癒』を連発して――オレを助けて。それでも意識が戻らねぇオレを見て、どんなこと考えたんだろう?
オレのケガ、さらにトラウマになってねぇ?
でも、中途半端な状態じゃますます心配かけるだけだし。完治するまで会いに行けねぇ。
ミーハには、元気な姿しか見せたくなかった。
「今頃ミーハのヤツ、呪文書を山のように積み上げられて、徹夜で覚え直しさせられてんのかなー?」
タオの言葉に、その様子を想像する。
暗い冷たい部屋、大人たちに周りをぐるりと取り囲まれて、逃げようとしても逃げらんねぇミーハ。黒曜石のテーブルの上に、山積みになった大量の呪文書。
勉強嫌いのタオじゃなくても、うんざりするような状況だ。
その呪文書を1つ1つ開いて読んで、杖を振り上げて発動させて――もう一体、どんくらいの記憶を取り戻したんだろう?
辛い記憶に泣いてねーのかな?
側にいてやりてぇけど、体調戻す方が先だし。オレに何も言わず帰っちまった、ミーハの気持ちも分からなかった。
そんな何ヶ月も一緒に暮らしてた訳じゃねーのに、ミーハのいなくなった家の中は、ガランとして寒々しい。
ぐるっと周りを見回してもオレは1人で。
元の生活に戻っただけだっつーのに、ものスゲー喪失感に襲われて仕方なかった。
ちょっと里帰りしてるだけだ、呪文書を覚え直して記憶を取り戻したら、きっとここに戻って来る――そう信じてんのに、不安でたまんねぇ。
こんなに存在感を残してんのに、うちにあるミーハの痕跡があまりに少なくて愕然とした。
私物つっても、わずかな着替えと呪文書ぐらいしかねぇ。思い出になるようなモン、何も買ってやってなかったんだな、と、しみじみ実感するしかなかった。
あのルビーと銀のブレスレット、身に着けててくれてんのかな?
新調したばっかだった、剣の柄をぎゅっと握る。
手のひらに負ったハズのヤケドはもう、跡形もなく消えてて。柄に埋め込んだサファイアは、ファイヤーライオンの炎にも、濁ったりひび割れたりしてなくて良かった。
「ミーハ……」
恋人の『研磨』した宝石を、ひっそりと眺めては口接ける。
記憶喪失の魔法使いが、ここで恋人としてオレと一緒に暮らしてた。それが夢マボロシじゃねーっていう、ささやかな証拠のようだった。
完治を待つ間も、できるだけのことはした。
『オリャー、オメーにもそこそこ素質はあると思うぜ』
別れ際にルナに言われたセリフが、悔しいけど支えになった。
『まだ成長期で発展途上だけど、体デカくして鍛錬すりゃ、結構いい線行くんじゃねぇ?』
気休めだったかも知んねーけど、それを信じて鍛錬続けるしかねーんだろう。
全体的なパワーは勿論、握力、脚力、背筋、腹筋……鍛えなきゃいけねー部分は相当あった。天賦の剣の才能がなくても、努力と知力でカバーしてやる。
そう意気込んで、やるしかなかった。
「そーだよな、オレだって成長期はこれからだぜ!」
タオも、そう言ってニカッと笑った。
「黒い烈風」と共闘して、天才は天才なりに、色々考えることもあったんかな?
ルナみてーに体がでかくなった時、今と同等の小回りが利くかってのは分かんねーけど……チビのままでいるよりはマシなんだろうか?
「首都行く時は、オレも行くからゼッテー声かけろよな?」
タオはオレに約束させて、以前と同様、剣の訓練にも付き合ってくれた。
そりゃ、全快するまでは、前みてーな打ち合いはできねーんだけど。それでも1人にしねーでくれて、それだけでも助かった。
夜には、何通も手紙を書いた。
「首都のシーン家へ」って、そんくらいしか情報もねーし、それで届くって確信はなかったけど。でも、何かしねーではいらんなかった。
元気だぞ、って、知らせたかった。
返事は帰って来なかったけど、オレからの手紙自体が戻って来る事もなかったから、きっと受け取ってくれてはいるんだろうと思う。
ただ、ミーハ本人の手に渡ってるとは限らねぇ。
誰にも読まれずに、捨てられてっかも知んねぇ。
けど――オレの言葉を伝える方法、他に思いつかなかったし。返事なんか貰えねぇって悟った後でも、手紙を書くのはやめらんなかった。
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