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首都に行くのは初めてだった。
オレらの町から1週間近く……って聞いてたけど、それはどうやら最短でっつー意味だったらしい。
つまり、野宿覚悟でって話だ。
大勢で移動するならまだしも、タオとオレと2人きりの旅じゃ、野宿ばっかはさすがに危ねぇ。
いくら天才剣士だっても寝なきゃいけねーし、襲って来んのがモンスターとは限んねぇ。山賊とかならず者とか、そういうニンゲンだって警戒しとく必要がある。
ミーハとルナは、よく野宿とかしてそうだったけど……これはまあ、単純に実力があったからっつーより、危険だとか深く考えてなかったんじゃねーかな?
それでも無事だったっつーのは、勿論、スゲーって認めなきゃいけねーとは思うけど。
一番安全なのは、やっぱ、ちゃんと宿屋に泊ることだ。
そのためには町や村に寄らなきゃなんねーから、結果、夕方が近付くと先へ進めねぇ。しかも金が要る。
仕方なく、あちこちでモンスター倒したり短期の依頼を引き受けたりして、細々と稼ぎながら移動した。
お蔭で首都に着くのに2週間以上かかったけど、でもそれなりに充実した道中だったし、無駄じゃなかった。
かなり腕も上がった気がする。まあ、タオ程じゃねーけどな。
タオと言えば、オレらの町から遠く離れたとこに来ても、やっぱ「赤い閃光」は有名だった。
つっても、わざわざ名乗りながら旅してた訳じゃねーから、誰もタオがその本人だって気付かねぇ。
さりげなく噂を聞くと、「小鬼のような剣士らしい」とか「サルのようなガキだ」とか「いや、ガキのように小柄なオッサンだ」とか色々言われてて、ワリーけど笑った。
大概はタオも笑ってたけど、1回だけブチ切れたことがあった。首都のすぐ手前の街の居酒屋で、メシ食ってた時の事だ。
元々その店では、酔っぱらいのおっさんたちがルナの噂話をしてた。
「『黒い烈風』がまた荒稼ぎを始めたらしーぜ」
「いい魔法使いを相棒にしたんだってなぁ」
近くのテーブルでメシ食いながら、オレはそれをなんとなく聞いてた。
荒稼ぎしてるっつーんなら、あちこち賞金稼ぎにでも出てんのかな? 首都に着いたらまずルナんちに行こうと思ってたけど、下手すると留守かも知んねーな。
そんなことをぼんやりと考えてると、「シーン家」っつー単語が耳に入って来てハッとした。
「ヤツの前の相棒は、シーン家の跡取りだったろう? 今のはそれより優秀なのか?」
シーン家の跡取り――。ミーハのことだ、と思ったから、オレは咄嗟に耳をそばだてた。
「さすが、あんくらい名が売れると、相棒も選び放題だな」
「まだまだ若いっつーのに。天才同士が組むと、ますます無敵だな、うらやましい」
目をやると、タオも真剣な顔で聞いてた。
それが悪かった。
「同じ天才でも、『赤い閃光』とは大違いだな」
と、話題がタオのことに移っちまって……。
「なーに、あっちは元々田舎者だ。しかも頭の悪いチビだって話じゃねーか。比べもんになんねーだろうぜ」
ガハハハハ、とおっさんらの嘲笑が響いた。
オレだって「は!?」とか思った。ヤツら言いたい放題だったし。
「なぁに、大したことねーって話だぜ。ただのバカなチビだってよ」
「天才だっつー噂も、尾ひれがついた与太話かも知んねーな」
「サシでケンカすりゃ、オレの方が強いだろうぜ。なんせチビだからな」
って。
酔っぱらいのたわ言だって、勿論分かってた。言いたい放題に言われてたって、マジにとる必要はねぇ。
バカと酔っぱらいは、相手にする方がバカを見る。
タオだって分かってたと思う。酔っぱらいの言うコトに、いちいち目くじら立てんなってな。
けど――。
「チビチビ言ってんじゃねーよ、このタコ」
ゆらりと立ち上がり、そう言って凄んだタオは、凄んだ相手に「ああん?」と凄み返されて。更に。
「ガキがぁ、大人にナメた口きくんじゃねーぞ、ドチビ!」
……ドチビ、と言われてブチ切れちまった。
その後のことは、あんま思い出したくねぇ。
一言で言うなら、「凄かった」。
オレは古くからの付き合いだし、「赤い閃光」がすばしっこいチビだってことを知ってる。剣技もスゲーけど、ホントにスゲーのはその敏捷性なんだって。
今回のことは、その敏捷性の証明にもなったと思う。
ついでに「バカ」と「サル」と「短気」と「凶暴」の宣伝にもなったかも知んねーけど、そんなことは些細なコトだ。多分。
タオは素手で、あっという間に酔っぱらい全員を床に這いつくばらせ、何考えてんだか、自分に「ドチビ」つったヤツの下半身を裸に剥いた。
そんで、剣をスラッと抜き、ビシッとその股間に言い放った。
「今度オレのことをドチビつったら、テメーらの小っこいのをドチビにしてやる!」
バカだ。
前から知ってたけど、気が遠くなるくらいのバカだ。
バカだけど、印象は強烈で――。
「『赤い閃光』が首都に進撃」、と、そんな噂が広まるのは、あっという間のことだった。
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