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52 ピンキードラゴン編
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ピンキードラゴンが出るっつってた山は、意外にも兵士が立ち、誰も入んねぇよう封鎖されてた。
早朝から山に入ろうとしてたのはオレらだけじゃなかったみてーで、ソロの賞金稼ぎらしい、数人のオッサンが兵士に食ってかかってる。
「おうおう、誰の権限で勝手に道を閉鎖してんだよ、ああ!?」
ガラの悪そうな声で怒鳴り、兵士の胸ぐら掴んで脅しをかけてるヤツもいるけど、兵士たちは顔色も変えねぇ。
逆に、「どうしても用事があるんです」って泣き落とししようとしたオッサンもいたけど、それでも通してやることはなかった。
「どこの兵士だ?」
「街の自警団じゃねぇ?」
岩陰に隠れて様子を見ながら、タオと2人、ぼそぼそと話し合う。
馬は宿に置いてきたから、武器と最低限の荷物だけだ。今後の予定が見えねぇ以上、身軽な方が楽だと思った。
その後、岩陰からしばらく様子を見てたけど、山の入り口から奥には誰も入ることはできそうになかった。
「ヤベェな、本隊が来ちまうぞ」
ちらり、と街への道に目を向ける。
ルナも参加してると思われる、ピンキードラゴン狩猟隊。張り紙見た感じ、参加するヤツに人数制限はなかったけど、相手が相手だし、それなりの人数になるんじゃねーかなと思う。
あわよくば、ちょろっと紛れ込んで一緒に行けねーかな、と思わねーでもねーけど、山へ向かう道1つでこんだけ厳重にされてるんじゃ、成功率は低そうだ。
あんだけ頭ごなしに「ダメ、ダメ」言われた以上、ここでモタついてるとこ見られんのは得策じゃねーし、どうするか。
「ルナらが来る前に、先回りしときたかったな」
岩陰に張り付いたままぼそりとぼやくと、あっけらかんとした声で「行こーぜ」って言われた。
「けど、行きたくても行けねーだろ」
くいっとアゴをしゃくって、道の左右に立つ兵士たちをちろりと見る。
封鎖されてんのはきっとここだけじゃなく、山に続く道っつー道には全部、兵士が立ってるんだろう。道以外のとこには、当然魔獣が出放題だ。けど。
「だったら、道じゃねーとこ通りゃいいだけだろ」
タオはニシシと笑って、吹っ切ったように立ち上がった。
「道じゃねーとこ、って……」
ツッコミを入れつつ、ふっと思考が過去に落ちる。
『火球』を連続で放出し、目の前の邪魔な木々もモンスターも一瞬で消し炭にして、ドヤ顔で道を作るミーハの姿が思い浮かんだ。
ぎゅうっと切ない胸の痛みを押し隠し、タオを追うように立ち上がる。
「まさか、『火球』で燃やして道作ろうってんじゃねーだろうな?」
冗談めかしてニヤッと笑うと、タオはおかしそうに破顔して、「ミーハじゃねーんだから」と言った。
記憶喪失だったせいか、ミーハには色々、常識のねぇ部分があった。
魔法の使い方だって、オーバーキル気味っつーか、素材の剥ぎ取りすらできなくなるくらい、消し炭みてーにしちまうことも多々あった。
殲滅せよ、容赦するな……って教えられてたとしても、限度があんだろっつの。
そういうとこも好きだったし、放って置けねぇとも思ってたけど――どうやらタオにも、常識っつーもんがなかったらしい。
記憶喪失でもねーのに、おかしいよな。
道じゃねーとこ通るっつったヤツに、ついて行こうとしてた自分を罵りてぇ。
ミーハと違って魔法も使えねぇし、地道にモンスターを倒しながら進むんだろうって思ってた。けど。
「ひゃっはーっ!」
弾んだ声でびゅーんと前を飛ぶ、小柄な後姿をじろっと睨む。
いや、気持ち的には睨みねぇけど、実際はそんな余裕ない。デカい木に絡みついたツタにしっかりしがみつき、びゅうっと風を切る音に身を竦める。
『わああああっ!』
心の中だけで叫ぶのは、魔獣の興味を引きたくねぇからだ。この辺にいるらしいモンスターが、どんくらい厄介か分かんねぇ。声なき声で叫びながら、木から木へと飛び移る。
猿じゃねーんだから、いつまでもこんな移動ができるとは思えねぇ。けど集中を切らしたらあっという間に下に落ちて、魔獣に取り囲まれちまう。
今は、辺り一面を焼き尽くせるミーハも側にいねぇ。
襲い掛かるモンスターは、剣で1匹1匹倒してかなきゃいけなくて、そんなことしてたら、命が幾つあっても足りねぇだろう。
無謀な行程に不安を抱きつつ、タオに従うことにしたのは、ちょっと山奥に入れば見張りがいなくなるんじゃねーかって、ささやかな打算があったからだ。
遠くで道を封鎖してる以上、ここまで上がってくる人間は、依頼を受けた狩猟隊の者くらいだろう。
それか、オレらみてーに自己責任で、道のねぇトコ無理矢理通って来たような輩か。
道の封鎖が、通行人に被害を出さねぇためなのか、存分に狩猟隊を暴れさすためなのか、それとも守んなきゃならねぇ秘密でもあんのか、その辺は分かんねぇ。
ただ、単に道を封鎖するためだけに、貴重な人材をそうそう裂いてもいらんねぇだろうと思った。
「ひょおおおっ!」
タオの奇声を聞きながら、息を詰めて風圧に耐える。木から木へ、枝から枝へ、全身惜しみなく酷使して、誰にも邪魔されずに前に進む。
馬を宿に置いてきてよかった。軽装で来ててよかった。そんなささやかなラッキーを胸に抱き、時々虫系のモンスターを倒しつつ先を目指して――。
クエェェェ、と、不気味な鳴き声が轟くのを聞いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。
「そろそろよくね?」
タオに訊かれ、「そーだな」とうなずく。
素早く木々を移動して、魔物のあんま出ねぇだろう山道の上に降り立つと、全身がバキバキ言ってんのに気が付いた。
兵士の姿は思った通り見かけない。
ルナたちは? 木々を猿の真似して飛び移るより、整った山道を馬で駆けた方が早いだろう。
先回りしたつもりが、やや先を行かれてるみてーだけど、見つかって追い返されるよりマシだった。
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