アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
57
-
ミーハへの思いなのか、それとも「邪魔だ」って言われたことへの怒りなのか、何が原因なのかは自分でも分かんなかった。
心臓がドクドク激しく胸を叩いて、全身に熱い血が巡る。
体中の細胞っつー細胞が、何つーかぱちぱち弾けて、いくらでも戦えそうな気がした。
剣が軽い。
体も軽い。
どこまでも高くジャンプできそうな、高揚感。
胸の中が熱くて熱くて、このやろう、って思った。誰が邪魔だ、お前らの方が邪魔だ。オレの前に誰も立つな。
「はーあああああっ!」
一声上げて、飛びかかる。
右手の剣を勢いよく振り下ろし、重力も勢いも刀身に全部乗せて斬りつけると、ザシュッと確実な手ごたえと共に、ピンキードラゴンの翼が裂けた。
着地と共に地面を蹴り、体が動くままに剣を振るう。横になぎ、踏み込んで斬り上げ、そのままターンして手数を稼ぎながら離脱する。
ルナがどうとか、タオがどうとか、もう目に入んなかった。
他の剣士たちも、どうでもいい。
足手まといになんねぇように、とか、そんな配慮もどっか遠くに吹き飛んだ。
「やあっ!」
気合と共に足元に近寄り、力を載せて斬りつける。
そのまま全身をバネにジャンプして、頭上の翼を斬り払いながら後退、そしてもっかい高くジャンプ。
体重を乗せて振り下ろした剣は、ピンキードラゴンの爪を破壊した。
じんと痺れる衝撃をやり過ごし、着地してから再び動く。
ギュエェェェ!
ドラゴンが、怒ったように咆哮した。
間近からの威圧に息が詰まる。破れた翼からの強風、とっさに顔を庇ったオレらを、踏みつけるべくドラゴンが暴れる。
「ぐわっ」
悲鳴を上げたのは誰だろう? そんなことすら考えに及ばねぇ。
タオの双剣のひらめきを横目に、踏み込んで斬り上げ、斬り払い、ターンしながら横なぎに斬る。
急所がどうとか、無力化にはどこ狙うべきかとか、余計なことは何も考えず、ひたすら体が動くに任せた。
ギュエッ、ギュエェェェ!
ドラゴンの咆哮。
大音量での威圧も、だんだん慣れてくモンなんだって初めて知った。
「ううりゃあああっ!」
ルナの雄叫びと共に、長剣がびゅんっと振り下ろされる。
その攻撃に声もなく、ふらついてよろめくドラゴン。
心臓があるだろう位置ががら空きだ、と――見ると同時に、脚が勝手に地面を蹴った。
「はっ!」
右手の剣を逆手に構え、勢いをつけてジャンプする。
オレの体重と地面を蹴った勢いとを載せた剣は、確かな手ごたえと共に固い皮膚を貫いた。
ズシー……ンン、と結構な音と共に山を揺らしたドラゴンは、さっきと同様ビクビク脚を痙れんさせて、やがてひっそり大人しくなった。
はあーっ、とため息をつき、剣を抜いて鞘に戻す。
心臓はまだ痛いくらいドキドキしてたけど、深呼吸を繰り返すうちに、だんだんと全身が痺れてきた。
頭に血が上ってきて、ふらふらする。
怖いくらいに集中できてた反動か? ぼうっとし始めた頭で、横たわるドラゴンを眺めてると、突然バシッと肩を叩かれた。
「強くなったじゃん、お前!」
衝撃によろめきながら振り向くと、不敵な笑みを浮かべてるルナだ。
痛ぇとか、何すんだ、とか言い返す気力も沸いてこなくて、黙ったままで顔をしかめる。
少しは認められたのかって思うと、嬉しくねぇ訳じゃねーけど、さっきのは自分でもちょっと信じらんねぇくらいの感覚だったし。もっかいあんなふうに動けるかって言われたら、正直どうだか分かんねぇ。
それに多分、マイナス評価からゼロに戻っただけな気もする。
デザートライオンの討伐ん時の、あの敗北感はまだ記憶に新しかった。
「短期間ですげーアップだな、『赤い閃光』と猛特訓したのか?」
ビミョーな上から目線での問いに、応える代わりにじろっと睨む。
「うるせーな、関係ねーだろ。これでもまだ、ミーハの邪魔になるっつーのかよ?」
すると、ニヤニヤ笑ってたルナが、すうっと真顔になって眉をしかめた。
「お前がどんだけ頑張っても、そんだけは変わんねーよ」
一転した冷たい口調に、腹の奥まですぅっと冷えた。
意味が分かんねぇ。
横で聞いてたタオも、同じこと思ったんだろう。
「なんでだよ? 意味分かんねーぞ、てめぇ!」
怒鳴りながら立ち上がり、ルナに食って掛かった。
「アルだけじゃねぇ。オレだって、ミーハの友達なんだよ! 友達に会いに来てんのに、なんでそれが邪魔なんだ!?」
小柄なタオに胸倉を掴まれ、前かがみになりながら、ルナがちっと舌打ちをする。
タオの腕を振り払ったルナは、オレらから数歩下がって、腰に付けたポーチから発煙筒みてーなのを取り出した。
それは合図に使う花火筒だったみてーだ。
導火線に火をつけると、数秒後にひゅーっと打ち上がり、パァンと上空で火花を散らした。
つられて空を見上げると、少しオレンジがかってて、もう夕方に近いんだと分かる。また1日が終わるのか。
ここに来てから何時間かかったんだろう? ミーハが消えてから、どんだけかかった?
すうっと冷えた胸が、ズキッと痛む。
オレの痛みなんて、関係ねぇって顔をして、ルナがえらそうに口を開いた。
「お前らの頑張りに報いて、1つ教えといてやるよ。チビは……王都のシーン・ジュニアは、お前らのことなんか何にも覚えてねぇ。だから会ったって、無駄なんだよ」
突然現れたオレらを見て、ぽかんと口を開けて普通に驚いてた、さっきのミーハを思い出す。
オレらを見て、感動も歓喜も郷愁も、ミーハは何も感じてなかった。
モヤモヤとしてた違和感が、形になって襲い掛かる。
「せっかく元に戻ったんだ。アイツの頑張り、台無しにすんな」
ルナの一方的な宣言に、オレもタオもとっさに反論することはできなかった。
やがてピカッと白光が輝き、白いローブを着た魔法使いが、オレらの前に現れる。けど、それはミーハじゃなかった。
「全員いますか?」
知らねぇ声に、「おお、いいぜ」とルナが応える。
「テレポート」
杖を構え、気負いなく紡がれる呪文。
ビカッと視界を強烈な白光が塗りつぶして――次の瞬間、オレらはピンキードラゴンの死骸と共に、王都の広場に戻ってた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
57 / 102