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朝メシを食ってから、ミーハと一緒にスペル・ショップに向かった。
勿論、新しい呪文書を買うつもりだ。
オレとしては攻撃魔法より、熊胆みてーな生アイテムの持ち帰りに便利な、運搬魔法とか移動魔法系の呪文が欲しい。
アイテムを、うちの冷蔵庫に直送できるような呪文とか……それかオレ達が、一瞬で家に戻れる呪文とか。
そういう呪文書を買おうな、と歩きながら念を押すと、昨日のお仕置きが効いてねぇのか、ミーハは目を逸らして「う、うん」と応えた。
その「うん」はYesの「うん」か?
つーか、何だその「隙あらば」みてーな顔は?
「お仕置きが足らねーみてーだな?」
こめかみにゲンコツを当て、ちょっと痛めのマッサージをしてやる。勿論、いい子になるおまじないだ。痛ぇってことは、悪い子ってことだ!
「うわ、わ、ああーっ」
ミーハがぴぎゃーと悲鳴を上げてると――それをまるっきりスルーして、顔馴染みの剣士が声を掛けてきた。
「よお、お前ら。掲示板見たか?」
小柄ながら双剣を操る天才剣士、タオだ。
天才剣士ってんなら、首都辺りじゃ「黒の烈風」とかいうのが有名らしいだけど、タオはそれに対して、「赤い閃光」って呼ばれてる。
どんな奴かっつーと、まあ一言で説明するなら、すばしっこいバカだ。
「おはよう、タオ君」
ミーハが、オレのお仕置きから逃れて言った。
「掲示板、何?」
「あ、まだ見てねーの? 一緒に行こうぜ!」
タオの誘いに、ミーハが「うんっ」と嬉しそうにうなずいてて、ムカッとする。
「こら、てめぇ。オレとの買い物はどうすんだよ? 呪文書買いに行くんだろ?」
ミーハの首に腕を回し、ぐいっと他の男から引き離すのは、恋人として当然のことだ。。
「何だよー、アルは独占欲強ぇーよな」
タオはちょっと文句を言って、それからにんまりと笑った。
「けどさ、呪文書買うんなら、その前に掲示板見た方が、ゼッテーいいぜ。報酬に、何かの呪文書くれるって依頼があったんだ」
「はあー? 報酬にー?」
「オレはよく知らねーけど、レアだって言ってたぞ」
「うおっ、レアっ!?」
ミーハの目が、「レア」って言葉にきらんと輝いた。途端に鼻息荒くなって、色気はねーけど可愛くて笑える。
レアな呪文書っつーのはレアだけど、個人依頼の報酬としては、そういう場合もたまにある。オレも以前、珍しいナイフや釣り道具なんかを、報酬の追加に貰った事もあった。
けど、ナイフや何かの小道具と違って、呪文書なんか誰でも使えるって訳じゃねぇのに。そんな報酬で喜ぶヤツ、いんのかな?
いや、まあ、ここに1人いる訳だけど。
「あの、あの、アル君っ」
「何だよ?」
うずうずとオレの腕を引っ張るミーハに苦笑する。鼻息荒ぇ。落ち着きがねぇ。そんなにレアに惹かれるか?
けど、「記憶を失くす前」のお前が知らねー呪文は、呪文書貰ったって使えなくね? それともそんな事、考えてもねーのかな?
「仕方ねーな。まず掲示板見るだけだぞ?」
ちっ、と舌打ちして頭を撫でると、ミーハは「うんっ」と、さっきとは大違いのスゲーいい返事でうなずいた。
掲示板の前には、結構人だかりができてた。
「ほら、これだぜ」
タオが自慢げに指差す貼り紙に、ミーハが「ふおお、スゴイ」と歓声を上げる。オレは2人の頭越しにそれを見て、正直ちょっとガッカリした。
――依頼:護衛
場所:西山ふもと・蛇塚奥への往復
報酬:金貨2枚と『劫火』の呪文書――
護衛依頼。しかも蛇塚っつったら、毒蛇の巣で知られる場所だ。無数の毒ヘビ相手に金貨2枚って、安くねぇ!?
まあ、それを補う為のレア呪文書なのかも知んねーけど、いくらレアだっつっても納得はしにくい。
しかも『劫火』。
『火球』だけでうんざりなのに、この上『劫火』って。モンスター相手にどんだけオーバーキルやらかすつもりなんだっつの。ドラゴンとでも戦うのか?
「うお、あ、アル君、オレ、これ欲しい!」
興奮してますます鼻息荒くなるミーハを、横目で睨んでため息をつく。
一面の焼け野原が頭に浮かぶ。
ぶるぶると頭を振って恐ろしい想像を振り払い、オレはミーハに冷たく告げた。
「却下!」
ふええ、とミーハが泣き声を上げるけど、泣いたってムダだし、ダメなものはダメだ。
「オレは行かねー!」
キッパリと宣言して、ミーハにくるっと背を向ける。そしたら、それを待ってたかのように、タオが言った。
「アルが行かねーなら、オレと行くか、ミーハ?」
オレが「はあっ!?」と叫ぶのと、ミーハが「行く!」と言ったのと、ほぼ同時。タオがにんまり笑うのを見て、見透かされたような気がして、ムカッとした。
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