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***ヴィンセント***
「よ、よせ! なぜ俺の装備を剥ぐ? そんな狼藉……ああっ! 手を離せ阿保! 変態! 強姦魔ぁ!!」
「なーにが強姦魔だ。はよ脱がんか! 俺がちょっと目を離した隙に勇者コスなんか覚えやがって。今日という今日は……ってこれ外しにくい! あーイライラする!」
部下のブラッドリーが勇者の装備一式を強引に取り外しにかかるが、手こずっているようだ。ただでさえ怒り心頭なのに、俺が纏っていた装備が最上級のものばかりだと知るや否や、両手に高火力の攻撃魔法を出現させていた。
「そうカッカすんなって。こんな所で争って何になる。戦争は私室で起きているんじゃない、戦場で起こってるんだ。怒ってないで、ここは穏便に示談でいこうぜ」
「あのですね! 話し合いであなたを納得できそうもないからこうして強行策をとってるんじゃないですか!」
攻撃魔法は消したものの、ブラッドリーはまだお怒りのようであった。
「魔王が勇者を好きになるなど……ありえない」
「いや、好きなんじゃない。愛しているんだ」
「やかましいわ。それが問題だって言ってるでしょう! 嘆かわしい。前代未聞です。いいですか、あなたを殺すために旅をしているような人間に惚れてしまってるんですよ? あなたねぇ、祖母の振りをしてまで自分を捕食しようとしてくる狼に、赤ずきんが恋すると思います!? 末代までの笑い草ですよ!」
「そういうお前はどうなんだ、ブラッドリー。お前だってヒトの生き血を吸うという蛮行をするだろうが」
「それは私が吸血鬼であることを知ってて言ってるんですか! 吸血鬼なんですから血吸ってナンボでしょうよ。それともアレですか、一時期流行ったタピオカでも吸っとけって話ですか!」
「そこまでは言ってない。ただそれと同じなんだよ」
「何がです」
「魔王は勇者に惚れてナンボだ」
「……二千以上の時を生きてきて辿り着いた境地がそれですか。長生きするもんじゃねえな、まったく」
「その逆も然りだ。勇者は魔王を慕う運命」
「どんな生活すればそんな着想を得られるのか甚だ疑問だわ。さっきも言った通り、勇者は血相変えて殺しに来ますからね。しかもパーティとかぬかして数の暴力にも出る卑怯な輩です。そんなのもはやリンチですよ。乱交パーティですよ!」
「リンチ、乱交……か」
まあ、それでもいいかな。俺だって勇者パーティとの複数プレイは何度も妄想した。その度に勇者は大変素晴らしい絶頂を見せてくれる。
「ーー今にして思えば、あの頃からおかしかったのですね。数百年前にあなたが勇者の養成所『勇者カレッジ』なるものを設立した頃から」
勇者カレッジ。略して勇カレ。俺が勇者に求める資質というものはどうもハードルが高いものが多いらしく、野生の勇者たちでそれを満たす者はついぞ現れることはなかった。
だったら自分で生み出すしかないじゃない! と持ち前のDIY精神にかき立てられ、ライバル発掘の名目のもと勇カレ設立に至ったというわけである。その実態は俺の、その、は、は、伴侶を見つけ出すための場である。きゃー! やだなぁもう。好き。勇者好き。ちゅっちゅしたい。渾身の一撃をお見舞いされたい。
「あなたあのとき言ってましたよね『俺と雌雄を決する者がいないのでは張り合いに欠ける。宿敵というものは、自ら作り出すものなんだ』って。あの言葉に感化され、今も従っている者も大勢います。あの言葉は嘘だったのですね」
「嘘じゃないぞ。この場合は方便と言うんだ」
「はいはい嘘つきは皆決まってそう言いまーす。結局のところ私利私欲のためだったと認めるわけですよね。自分好みの勇者を育て上げて結ばれたかったわけですね」
「む、結ばれるだなんてそんな! まだ特定の誰かすらいないのに先のことばかり話してたら、鬼に笑われちゃうぞ」なんてことを言っていたら、目の前の吸血鬼に鼻で笑われた。求めていたリアクションじゃない。
「いいですか、真面目な話をします。魔界のトップであるあなたがそれじゃ、魔族たちの士気にも関わります。なんなら人間に滅ぼされるのも秒読みです。ここは一度涙を飲んで原点に戻ってもらわなければ。本来の魔王と勇者の立ち位置を思い出していただきたい。大体あなたは……」
うーわ、ブラッドリーの小言マシンガン炸裂である。こうなったら止まらないんだよなぁ。口から先に生まれてきたか、はたまた前世が囃家なのか。
勇者を諦めるつもりはさらさらない。とりあえずこの場を凌ぐには自室に引きこもるのをやめればいいのだろう。いい機会だ、人間界へ繰り出そう。自ら理想の勇者に変身して自給自足するのも虚しいと思っていたところだ。生勇者キボンヌ。
「話聞いてます? ヴィンセント様!」
「分かった分かった! 外に出ればいいんだろ。ちょうど人間界に用事があってな。お前もついて来い」
待っていろ勇者。今行くからな。そうと決まればおめかししなくては!
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