アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
勇者たちを見送ったヴィンセント様は、その足で職員トイレに駆け込んだ。まさか尿意を我慢していた訳ではあるまい。俺は不躾ながら間髪入れず中に入ってみた。
「理事長……何してんですか魔王様」
「はぁ、はぁ……。なんだ、お前か」
ヴィンセント様はなんと、人間体から魔王の姿に戻ってしまっていた。魔王がおはだけしてしまうとはなかなかの事態ではある。しかも、今度こそ本当に具合が悪そうだ。
「こんなとこで変身解かないで下さい。誰に見られるか分かりませんよ」
「違う。俺だってそんなつもりじゃなかったさ。解いたんじゃなく、勝手に解けたんだ。俺としたことが……」
「で。さっきの醜態はなんなんです? あんなの、初デートでかましたら即破局ルートですよ。まさかあの先輩勇者くんがあなたの好みど真ん中だったので取り乱したあまり発作を起こしました、なんてオチ……」
自分で言いながら、その仮説が非常に現実味を帯びていることに気づく。
「ーーまさかとは思いますが、ヴィンセント様」
「……ふっ」
急に元気を取り戻したうちの魔王が立ち上がり、こちらを向いて凄んでくる。
「たわけ! 俺は魔界を統べる王だぞ? 少しばかり容姿の優れた勇者に出会おうが平常心くらい保っていられるわ」
「そんな顔で言われましてもねぇ」
「なに?」
「鏡見て下さい。鼻血出てます」
「えっ嘘っ!」
鏡に向き直ったヴィンセント様が慌てて顔を拭っている。あーもう、手袋がシミになるって。
「これはあくまで俺の推測なのですがぁ……きっとすごーーく刺激的な何かがあって鼻血が出てしまったんでしょうねぇ」
「馬鹿にしやがって。あの男……そう、あの男が悪い! カイル! カイルカイルカイルカイル!!」
「うわ、うるさっ!」
「はぁ……はぁ……名前、一生忘れねえ。にしても最近の勇者は、凄いな。まさか人工呼吸に見せかけたキスで魔王を殺しにかかる勇者がいるとは……危うく……どんなRPGにもなかったパターンだ」
「お言葉ですが、キスで殺されかける魔王だって私は初耳ですよ」
ヴィンセント様は拳を握る。それはもう、大敗を喫したとでも言わんばかりに。
「それよりどうします? 魔王の命を脅かす存在が現れました。早いとこ血祭りにしなくては」
ぴたり。魔王の震えが止まる。
「ヴィンセント様?」
ああ、もうこれは顔を覗く必要すらない。
確実にーー。
鏡越しの魔王様の御尊顔は、真っ赤だった。真っ赤に照れたお顔をマントで必死に隠そうとしている。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 17