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***ヴィンセント***
カイルの旅立ちの日はすぐに訪れた。
当日は朝日が昇るとともにエントランスホールで見送りをすることになっている。
「今までお世話になりました」
カイルの手からカレッジの制服が返却される。これは間違いなく俺のコレクションの一つとして永久保存される運命にあるのだ。今すぐにでもカイルの残り香を摂取したい。hshsしたい。
「すーはー、すーはー……なんだかあっという間だったな。君との思い出が……」
出会って間もないので思い出など皆無だが、でもいいんだ! これから作るんだもんね!
「思い出が……浮かんできて寂しくなるが、今はそれよりも君がこの先どんな活躍をしてくれるのか、期待でいっぱいだよ」
「期待に添えるよう、全力で頑張ります」
「カイル君、これは私からの餞別だ。私がデザイン……」
背後でブラッドリーがつねったり小突いたり蹴ったり刺したりしてくる。俺の原案であることを伝えるのはいけないことなのか。
「私が……用意したんだ」
カイルが欲しがる物を全て揃えるつもりだったが、彼は今日まで何も注文することはなかった。俺がカイルの立場なら「理事長の全財産をよこせ」と言っていただろうに、無欲な男だ。ますます好ましい。
俺が見繕った最強装備を強引に渡すことも考えていたが、さんざん悩んだ挙句考えを改めることにした。
理由は二つ。一つはブラッドリーがうるさいからだ。なんで敵に塩を送るようなことするんですかー! と延々説教たれてくる。
もう一つが重要だ。それはカイル自身の成長について考えたとき、むやみに楽させるのは間違っているから。
本当は伝説の剣を授けたい。毎秒バフをかけたいし、魔城の攻略法も教えたい。だがそんなことをして、冒険とも呼べないほど楽な旅路を辿って、なんになるというのだ。せっかく外の世界には勇者を育む天然の養成所が広がっているというのに、それを経験しないのは甚大な機会損失となる。魔王という立場上、伸びしろがほぼ残っていない俺にしてみれば、野生のモンスターを倒して成長できるなんて羨ましいことこの上ないぞ。経験値稼ぎ、レベル上げは辛さと楽しさが同居するRPGきってのシステムだ。
獅子は我が子を谷底に突き落とすし、可愛い子には旅をさせる。これらの教訓を肝に銘じ、俺はカイルを送り出す。勇者としての資質が原石のまま俺の元まで来られても、ちっとも嬉しくない。そんな勇者モドキに殺されたくない。
経験値をたくさん溜めたら、きっと魔城の門は開かれる。
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