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俺から受け取ったグローブを装着するカイル。
「このグローブ……」
カイルの表情が神妙になり、俺は肝を冷やした。もしかしてサイズ合ってない? 色が問題? シルバーはあまり好きじゃないとか? もっとシックな色にするべきだった?
「これ付け心地いいですね。剣も持ちやすそうです」
胸を撫で下ろした。密かに採寸して作った特注品なのだから自信はあるぞ。それを嵌めた手で剣を持ち、俺の心臓を貫くのだろう。
次にマントをカイルの肩にかけた。
「これ結構長いですね」
裾をつまむカイルのひと言にまた肝を冷やす。もしかして長すぎた? 密かに採寸して、最も映えるとされてる膝下をキープするよう裁断したのだが。カレッジの制服のマントが腰あたりまでだから長く感じてしまうのかもしれない。
「見た目ほど重くないです。動きやすそう」
よかったぁ。戦闘の邪魔になるような物を贈呈するわけにはいかないからな。晴れ着をそつなく着こなすカイルに乾杯。と同時に両目に込み上げてくるものがあった。くぅぅ。男泣きしてしまう。
最後に武器なのだが、剣を選ぶ際は特にブラッドリーと揉めた。俺はプラチナソードを持たせようとしたのだが
「スタート地点でそんなレアリティ高い剣持ってるやつなんていませんよ!」
ブラッドリーのうるさいことと言ったら。プラチナソードか木刀かで悩んだ結果、間を取って鉄の剣に落ち着いた。
「本当に路銀はいらないのかい。出世払いで今なら言い値で用意するが」
「お気持ちだけで嬉しいです。この日のために自分でも溜めていましたし、そこまでお世話になるわけには」
謙虚なうえに節制もできるのか。今すぐ挙式してえ。
「困ったことがあればいつでも立ち寄るといい。アドバイスを授けよう」
「ありがとうございます。それでは、俺はこれで」
「達者でな」
最後に鉢巻を締めたその背中は、もう振り返ってこちらを見ることはない。だから遠慮なく思いの丈をぶつけられる。
体には気をつけて。神様、旅立つ彼にどうかご武運を。『勇者心得』は忘れずに持って行った? お腹出して寝ちゃダメだぞ。生モノはちゃんと火を通してから食べること。好き嫌いもしないように。何があるか分からないから血清は常に持ち歩いて。あと怪しい人にはついていかないんだよ。魔王とのお約束。
無事にいい勇者になりますように。
朝に日差しに目を細める。カイルが向かう先には広大な平原があり、その先には連なる山々がある。
勇者の旅の始まりだ。
カイルの制服のマントに顔を埋めながら、俺はそんなことを考える。側近の蔑むような視線も、今だけは気にならなかった。
完
……とまあ、普通ならこの辺で打ち切りになるものだが、勇者の旅が終わるまで俺だっておちおち休んでいられない。カイルの旅の様子を見逃すわけにはいかない。
そうと決まれば。
「どこ行くんです?」
「俺の部屋だ。お前もついて来い」
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