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実況が始まる。
「勇者カイル、順調に歩みを進めているようだ。澄み渡るような晴天、吹き込む風はとても気持ち良さそうだ……ブラッドリーも何か言え」
「春の陽気に満ちた草原が、勇者のものと思われる鮮血で彩られましたとさ。以上」
「お前はどうしても勇者を殺したいようだな」
「言っておきますけど、勇者抹殺計画はまだ諦めてませんからね。スライムだろうが何だろうが、殺してくれるに越したことはないんです。あ、言ってるそばからスライム出現ですよ」
おお、カイルの初戦闘。張り切って実況をさせていただく。
「1匹のスライムが飛び出してきた! 対してカイルの行動はー? おーっと剣を取った! 『戦う』のコマンドが選択されたようだ。これから魔王を倒すことになる勇者カイル、その初陣ともなると大変貴重。我輩らは今世紀の瞬間に立ち会っている! ブラッドリー、初戦の結果はどうなるだろうか」
「相手はスライムですからね、勇者が負けることなんて万に一つもないんでしょうけど、そこはあえて万以下の可能性に賭けて、このスライムが勇者を血祭りに上げてくれるのを所望します」
「解説員のブラッドリー、謎のスライム推しを始めている。さてはスライムフェチかー? ニッチにも程があるぞー」
「あんたにだけは言われたくねえわ」
「勇者は剣を大きく振りかぶり……勇者の攻撃! これはいい太刀筋だ! 我流なのでしょうかこれは。解説員、何かひと言を」
「今だけですよ、盛り上がれるのは。どうせ飽きるほど見ることになるんですから。経験値稼ぎの戦闘なんて、明日にもなればスキップするようになりますって」
「解説員の風上にも置けない発言はさておき、見事に斬撃が決まったー! スライムは……消滅! 一撃で倒せたようだ。初勝利の瞬間! カメラのフラッシュが一斉に焚かれる!」
「フッ、見て下さい。あの勇者、スライム1匹でレベル上がってますよ。実に滑稽です」
「勇者を貶す発言はそこまでだー! どうしましょう、ヒーローインタビューを敢行したい。私今無性にヒーローインタビューをしたくてたまりません。行ってきてもいいでしょうか」
「一気にラスボス戦を繰り広げたいのならご自由にどうぞ」
「……の前に悪い、ちょっと水分補給してくる」
「一度に喋りすぎなんですよ。あ、私はちゃんと自分の分を用意してきているのでお構いなく」
ブラッドリーはこれ見よがしにグラスに注いだ血液を飲んでいる。悪趣味なやつめ。俺だって昼からワインを開けて見せびらかすように飲んでやる。
「ただいま! カイルはどうなってる」
「遅いですよヴィンセント様。もう隣村に着いてます」
「はやっ!」
本当だ。カイルは最寄りのミル村の入り口付近で地図とにらめっこ中だった。
「スライムは? あの後も出てきたんだろ?」
「出ましたよ。ただ、なぜかカイルはスライムを無視して歩いてました。どういうことなのか私にも分かりません。スライムごときレベル上げの足しにもならないと判断したか」
「……ハッーーもしくは、むやみな殺生を避けるつもりか。スライムとはいえ五分の魂。カイル……お前というやつはなんて慈悲深いんだ!」
「よくそこまで物事をポジティブに捉えられるもんですね。ある種の才能ですよ」
「ブラッドリー、ミル村とはどんな所か説明を求む」
「はい。資料によりますと、人口は200人程度の小規模な村です。にも関わらず広大な広さを誇っているのは、この村が放牧で栄えているからでしょうね。実にのどかな村なので、武具屋やギルドといった施設はございません。冒険をするうえでは長居は無用かと。次の町へ進むよう促しましょう」
「旅に必要か否かはカイルが決めることだ。俺たちが口出しすべきことじゃない」
俺とブラッドリーの視線が衝突した。意見が真っ向に割れたことで討論の幕が切って落とされる。
「いやいや、こんな村はあってもなくても変わらないでしょう。武器の新調すらできないんですから。変に目移りして時間がかからないよう村ごと消すべきです」
「何言いやがる。旅に一期一会の出会いは不可欠だろうが。カイルの成長に無駄な出会いなんて皆無なんだよ。それに村を消滅させるなんて、そこの住民が可哀想だって思わねえのか!」
「あんたほんとに魔王なの!?」
ブラッドリーが悲鳴に近い非難をしてくる。その後は諦めたと言わんばかりにソファに深く座り込んでしまった。そうだ、そうして黙って見届けていろ。
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