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「あああああ!またフラれたぁぁぁ!!」
夜の賑やかな酒場に響く、俺の悲痛な声。
周囲から何事かと注目を集めるが、気にしてなんていられない。
「またか」
温かい料理が置かれるテーブルの対面に座るのは、俺の同僚であり友人である、ルゼフ・ダウルクだ。
突然呼び出したにも関わらず、嫌な顔一つ見せずに駆け付けてくれた。今夜のヤケ酒に付き合ってくれる気の良い奴である。
「これで何度目だ?天下のα様がΩにフラれるとはなぁ。それも連続で!いや~、面白くて酒が進む進む」
……訂正しよう。こいつは性格が悪い。見るからに傷心中の友人になんてことを言うんだ。俺の失恋話を酒の肴にするために呼んだんじゃないぞ。
キッと睨めば「おー怖い怖い可愛い」と、馬鹿にしているとしか思えない口調で言葉が返ってくる。最後の可愛いが余計だ。
一気に飲んで空にしたビールジョッキを乱暴にテーブルの上に置くと、料理の乗った皿が音を立てて僅かに跳ねた。ガックリと頭を下げれば、湯気の立つスープに俺の顔が映り込む。
深く被ったフードの中。甘そうなキャラメル色の髪がふんわり広がり、小さな顔の輪郭を縁取っている。パッチリとした二重のくりくりした目が、憂鬱そうに潤んでいた。リップでも塗っていそうな艶のある唇からは、物憂げなため息が零れる。
…文句無しに可愛らしい顔立ちの美少年がそこに居た。
「くっそおおお!何が可愛い顔の美少年だ!俺はもう25だぞ!?こんな容姿もう嫌だあああ!!!」
「お~荒れてんなぁ」
世の中には男女の他にα、β、Ωの3つの性が存在する。
ざっくり特徴を上げると、αは優秀で出世頭、βは普通、Ωは美形が多くて発情期があるってとこか。
あん?伝わりにくい上にβに至っては特徴じゃない?知るかそんなもん。詳しい説明は面倒くさいので省く。
俺ことエルド・レーゼンは男のαだ。リラ国が誇る魔術師団に所属している。
魔術を扱う専門職であり高給取り。実家はそこそこ儲けている商家。両親共に健在で、3つ上の兄と5つ下の妹がいる。
性格は人当たりが良いと評判で、悪い噂も無ければ、当然後ろ暗い事も無い。自分で言うのも何だが、誠実で恋人には一途に尽くすタイプ、だと思う。…恋人居たこと無い歴年齢だけど。
………とにかく!これだけ聞けば結婚相手には申し分ない人物の筈なのだ、俺は!引く手あまただろう、普通なら!!
「ごめんなさい!僕より可愛らしい人をそんな目で見ることはできません!…だってさ!!αなのにそう言う対象にならないってどう言う事だよ。俺にどうしろって言うの?世の中顔か、見た目なのか!」
「ブッッ!はははははは!顔か!そりゃどうしようもないな!まあ、エルドを振った奴の気持ちもわかる。これだけ容姿が整ってたら、隣に立つ瀬がないってもんだ」
「そこまで?俺のコンプレックス、相手の自信をへし折るレベル?」
「まあな。それに、だ。エルドは魔術師塔に、ブフッ舞い降りた、ゴフッ天使とまで言われてるからな」
「笑うな!俺を指差して天使とか言うのは止めろ。こっちは真剣に悩んでるんだよ」
俺は可愛い。自惚れでも何でもなく非常に忌々しい事に、理想とは真逆の方向に容姿が優れている。
それこそ仲良くなったΩに「発情期辛いよね」と、自然な流れでΩあるあるを話出される程には…αに似つかわしくない容姿をしているのだ。
そんな容姿のせいか、Ωと仲良くなるのは早いものの、αでありながら中々意識してもらえない。
つまり………まっっったくモテない!!何でだ!αとΩって無条件に惹かれ合うものじゃないのか!?
「誰だよ!αに生まれただけで人生勝ち組とかぬかしやがった奴は!!相手には困らないとか嘘つくんじゃねえよ!!努力してるよ困ってるよ。現在進行形で絶賛恋人募集中だよ!!!」
「大変だな~αってのは。番を求めるのは本能なんだっけか。俺はβで良かったわ」
「ちくしょう。かわいいΩの嫁が欲しい」
「容姿的に嫁にされそうなのはエルドの方だけどな」
「ぐっ」
お前慰めてくれるんじゃないのかよ!?人の傷口抉りやがって!わっと嘆いてテーブルに顔を伏せた。
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