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第8章 To embrace 6
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俺はマンションの管理人に解約の連絡だけを入れると、クローゼットに私物が残っていないかの確認を済ませ、ベッドの端に座ったままの智樹を振り返った。
「行くぞ?」
「ああ、うん。あの、さ……、悪ぃんだけど、手ぇ貸してくんね?」
人に甘えることを極端に嫌う智樹が、俺に向かって手を貸してくれと言う……
それが何を意味するのか、俺はその時になって漸く気が付いた。
自分の足で立って歩けない程、乱暴に扱われた……、ってことなのか、智樹?
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
智樹が話さない以上、俺がその言葉を口にすることは出来ない。
俺と智樹との間に、いつの間にか出来た暗黙のルール。
そのルールを破る時……、それは俺達の関係が終わる時だ。
尤も、智樹は俺がそんな風に思ってるなんて、夢にも思っちゃいないだろうがな……
「仕方ねぇなぁ……」
わざと面倒臭そうに呟き、智樹に向かって手を伸ばすと、智樹は躊躇うことなく俺の手を取り、ゆっくりベッドから両足を下ろすと、俺に凭れかかるように抱き付いた。
「ったく、ほらよ……」
ともすれば倒れてしまいそうになる身体を、俺は両手で抱き上げると、住人のいなくなった部屋を後にした。
「どうする? 買物でもして帰るか?」
車に乗り込んですぐ、俺は今の智樹が到底出来そうもないことを口にした。
忘れた頃に湧き上がって来る怒りを鎮めるには、平然を装うことしか出来なかった。
「……いい。あんま腹減ってねぇし……」
「そっか……。でもな、お前は腹減ってなくても、俺は超絶腹減ってんだよ」
「あ、そっか朝飯……。悪ぃ……」
思い出したように顔を向けた智樹の額に、俺は一つだけキスをすると、視線を車窓へと向けた。
「いいよ、途中で何か買えば……。それにお前も何か腹入れとかないとな?」
お前の顔色見ただけで、何も食ってねぇことくらい、俺には分かるから…
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