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第9章 For You 13
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親父さんは俺の顔を見るなり、それまで堅物然としていた顔を思いっきり緩ませ、翔真とは違う武骨な手で俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
折角健太がセットし直してくれたのに、これじゃ台無しだ……
でも、不思議と悪い気がしないのは、もうずっと会ってない父ちゃんを思わせるから……なのかもしれない。
尤も、昔ながらの職人気質の父ちゃんと、企業のトップでもある翔真の親父さんとでは、似ても似つかないけど。
ま、苦手か苦手じゃないか、って聞かれたら苦手な部類には入るんだろうけど……
けどどうしても嫌いになれないのは、何の取柄もない、しがないストリップダンサーを、ましてや女でもない俺を、ちゃんと翔真の恋人としての認めてくれてるから……、なんだろうな。
「俺、飲み物取ってくるわ……」
親父さんへの挨拶を済ませた俺は、役目は終わったとばかりに翔真の手を解き、食欲をそそる目にも鮮やかな料理が並ぶビュッフェコーナーに向かった。
皿に適当に料理を乗せ、最後にきめ細かな気泡が立つシャンパンのグラスを手に取った。
パチパチと弾ける発砲音が、耳にとても心地いい。
俺はシャンパンを口に含むと、壁に凭れかかり、視界の中に、誰にも臆することなく挨拶を交わして行く翔真の姿を、常に捉えながら料理を摘まみながらグラスを傾けた。
そうして何杯目かのグラスを空けた時、俺の視界に、翔真ではない……でも確かに見覚えのある男の姿が飛び込んできた。
「嘘……だろ? なんでアイツがここに……?」
俺は咄嗟にグラスを置き、その男の姿を追った。
嘘だ……、だってアイツはもう……、きっとただの他人の空似だ。
「バカだな……、またアイツの幻覚見るなんて……」
自分に言い聞かせ、再びグラスを手に取った俺は、それを一気に煽り、口元をスーツの袖で拭った。
酒のせいだと、そう思いたかった。
でもゆっくりとこちらに向かって歩いて来るその姿を見た瞬間、微かに抱いた希望は、俺の手の中から滑り落ちたグラスと共に、粉々に砕け散った。
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