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第10章 Rainy Kiss 2
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なのにその後も、何のつもりか松下潤一は諦めることなく、来る日も来る日も俺に動画を見せては、
「これ絶対君だと思うんだよね……」
と繰り返した。
「違う、俺じゃない」って何度も否定してるのに……
でもその時はどうしてだか否定する言葉が口から出て来なかった。
いや、否定することが出来なかった……、と言った方が正しいのか?
「もういい加減観念したら? これ絶対大田君だよね?」
初めて……だった。
高校に進学してから、もう数カ月は経とうとしているのに、名前を呼ばれたのは、その時が初めてだった。
いつだって教室の片隅にポツンと一人いる俺の存在なんて、誰も知らないと思っていた。
クラスの奴らだって、教師にしたって同じだ、俺の存在なんて最初からそこになかったかのように扱っていた。
尤も、俺自身が壁を作っていたんだから、それも当然のことなんだろうけど……
なのにコイツは……松下潤一は、俺を“大田君”って呼んだんだ。
俺の鋼鉄のように硬い壁に、ほんの僅かな風穴を開けたんだ……、たった一言で……
正直、複雑だった。
居場所がない……寧ろ自分の居場所なんて必要ないとすら思っていたのに、松下潤一に名前を呼ばれた瞬間、そこに少しだけ自分の空間が出来たような気がして……ほんのちょっと嬉しかった。
なのに俺は、
「だったら何だよ……、文句あんのか……。つか、俺が何してようと、お前には関係ねぇだろ……」
机に顔を伏せたまま、ぶっきらぼうな態度を装った。
すると松下潤一は近くにあった椅子を引き寄せ、そこにドカッと腰を下ろすと、俺の机に両肘を着き、クスリと笑った。
「やっとだよ。やっと認めてくれたよ。あのさ、実は俺もダンスやっててさ……」
「それがどうした……」
「一緒に踊んない?」
いつもの軽いノリとは違うその声は、顔を見なくたって分かる程真剣その物だった。
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