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カランカランと昔ながらのドアベルが乾いた音を鳴らす。
「いらしゃいませ」
「シュウさん、こんにちは」
「今日もいつものでいいかい?」
「あ、はい」
今どき珍しいレトロな内装の喫茶店。二か月くらい前、講義の合間に散歩してたら見つけた居心地のいい店。店内にはアコースティックな音楽が流れている。曲名は知らない。
「はい、おまたせしました」
「ありがとうございます」
うん。今日もおいしそうだ。
『いつもの』って言うのはこの、カフェオレとマスター特製のホットケーキ。言ってみたかったんだ、行きつけのバーでかっこよく「マスター、いつもの」って。
バーじゃないし、マスターに先に言われてるけど。パンケーキじゃなくて、ホットケーキってのがいいよね。優しい甘さでほっとする味。…狙ったわけじゃない。
ホットケーキを食べ終え、カフェオレのお代わりをもらって本を読む。この店を見つけてから、ここでこうして過ごす時間が至福の時だ。
好きな作家は朝比奈星那さん。どこが好きかって聞かれると難しいけど。読書好きな人なんてそんなもんでしょ。なんとなく、飽きずに読み進めて時間を忘れてしまう。
天気のいい日に喫茶店の窓際で読書だなんて、我ながら優雅な生活だよな。ってか、こんな素敵な店を見つけるなんて、二か月前の自分天才。
「あれ、いらっしゃい、ひさしぶりだね」
「ご無沙汰してます。やっと仕事が落ち着いたので」
常連さんが来たらしい。と言ってもこの店じゃマスターと仲が良くて会話してる人だって多いから、珍しいことじゃない。
雰囲気もそうだけど聞こえてくる声も爽やかだな。白いジャケットなんて派手なの着てるのになぜかチャラそうに見えない。
陰キャに分類される自分とは真逆のタイプ…。
あ、やべ、目があった気がする。でも俺前髪長いし気付かれてないきっと。待ってフラグ立てたかも。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
気付かれてた。んでこっちに歩いてきた。わあ陽キャだ…。近くで見てもイケメン…。すっごいにこにこしてるのが余計に怖い。え、ナチュラルに相席するじゃん。前言撤回、チャラいわ。
「あの、」
「ああ、ごめんね、僕は七瀬って言います」
「む、向井です」
姿勢を正してお辞儀をする七瀬さんにつられて自分も名乗ってしまった。助けを求めるようにマスターのほうを見ると、目が合って微笑まれた。え、知り合いだと思われてる?
「下の名前は?」
「颯太朗です」
「じゃあ颯くんね」
「はあ」
自己紹介がしたかったわけじゃないんだけど。
「颯くんはよくここに来るの?」
「あー、まあ、たまに」
「そうなんだ、僕もたまに来るんだ」
「はい、ブラックね」
「ありがとうございます」
「二人って知り合いだったの?」
「あ、いや…」
「僕がナンパしてるんです」
「!?」
「あっはは、変な人だけど仲良くしてあげて」
そう言うとシュウさんはカウンターの奥へ戻っていった。この七瀬という男、シュウさんと仲がよさそうなところを見るとどうやらただの不審者ではないらしい。
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