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ルカ視点の話
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・スフレ
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もう何年も、恋をしている。
その相手が、今目の前にいて、僕としゃべっている。
まだ僕は、その感覚に慣れなかった。
ハルを目の前にして感情を隠すのが、僕は上手くなった。
自分が他の人と違って、男性を好きになるのだとわかったのは、いつくらいだったのか、もうよく覚えてない。中学の時に初恋の人に告白をして、痛い目を見て、僕はこの気持ちは隠さなきゃいけないのだとわかった。
高校の時に、文芸部でハルと出会った。最初は、初恋の時のような痛いくらいの気持ちではないどころか、本当に友達としてしか見ていなかった。でも、真面目で何にでも真摯なハルに、いつの間にか惹かれていた。それは、穏やかで優しい「好き」の気持ちだった。
ぼくがこの喫茶店を仕事場として選んだのも、もしかしたらハルと合えるかも、と言う淡い期待からだったけれど、まさか本当に会えると思っていなくて、とても嬉しかった。
運よく、ハルは僕の気持ちに気がついてはいないみたいだった。だから、友達として寄り添っていられるだけで本当に、いいんだと、思っている。
この距離が、心地いい。でも、そうやってなだめようとする自分に、本当にそれでいいのかと牙を剥く自分もいる。
まるで、スフレだ。表面はしっかりした「友達」を装っていながら、中身はどろどろで、熱くて、得体の知れないような気持ちが、渦を巻いている。少しでもスプーンが割り開くように、きっかけがあったら、中身が出てしまいそうな、生々しい思い。
ハルが落ち込んでいるのを見て思わず出かけようと誘ったけど、もしかしたらどこか深いところで、僕は何かを期待しているのかも知れないと思う。
どこかで本当の気持ちが出てしまうのが、怖い。ハルの反応を予測してしまうと、とても怖い。
でも、もう出かける約束はしてしまったし、どこかで、本当のことを知ってほしい自分がいるのだ。それで終わりなら・・・いや、終わりになるのは嫌だ。どうしたらいいんだろう。
僕は帰り道、ハルからのメールを眺めながら、悶々としていた。
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・レモンアイスクリーム
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遊園地の一件以来、ハルは僕の店に来ない。
何か嫌われるようなことをしてしまっただろうか。
観覧車の上で、ハル自身にハルの話をしてしまった。僕は恥ずかしくて、ハルの顔をまともに見ることが出来なかった。
アレだろうか。
ハルには、わかってしまったのかもしれない。僕の気持ちが。
好かれていない人に好かれていることほど気持ち悪いこともないだろう。
僕の離陸は、失敗に終わったのかもしれなかった。
まぁ、それぐらいでしにたくなったりするほどもう子供でもないし、もしかしたら僕の勘違いかもしれないとも思う。ハルだって、忙しい時はあるはずだ。狭い視野の中で思いつめるほど、子供でもない。
でも、ハルに避けられているかもしれないと思うのは、辛かった。そこで僕は、ハルと話すきっかけを作るためにメールをした。
「新作のアイスクリームが出来たから食べにおいで。」
ハルは、意外と早く返信をくれた
「いつ行けば話せる?」
避けられているわけではないようだ。僕はほっとした。
「木曜の昼2時くらいが、一番空いてる。」
僕の心が弾み始めた。ハルと話が出来るんだ。多分、一ヶ月ぶりだった。そうだ、ハルの小説の感想も話したい。もういっそ、家に呼んでしまおうか。下心とかは、関係なく。ただただ、ハルと話がしたいと思った。
そんな気持ちにブレーキを掛けながら、僕は返信を待つ。
「来週行く。」
短い返事が来て、僕は思わずガッツポーズした。
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・ラーメン
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僕は、変な夢を見ていた。
夢の中では、ハルが小さくなっていた。僕の手のひらに納まってしまうくらいの大きさだ。
僕は、ハルをラーメンのどんぶりに入れてしまう。
ラーメンが入ったどんぶりの中を泳ぐハルは、
お
い
し
そ
う
食べてしまいたい。きっと、おいしいだろう。さっき食べたチャーシューみたいに、噛み締めたら、きっと。
僕のものにしてしまいたい。全部、そう、一片も他の人間になんか、残してやらない。
・・・いけない、これ以上は。ほんとうに怪物じゃないか。
だめだ、こんなの。
気付いたら雨の音がして、目が覚めていた。
僕は布団にくるまれている。きっとハルが運んでくれたのだろう。僕の横で、ハルは静かに本を読んでいる。
「ルカ…起こしちゃったか?」
ハルの優しい眼差しがあって。僕は、悪夢を振り払うように声を出す。
「ううん、よく寝たから目が覚めただけ。」
「なんか歯ぎしりしてたけど。」
「・・・ちょっとうなされたんだよね。」
「それまですやすや寝てたのに、めちゃくちゃ顔怖かった。」
「…恥ずかしいから見ないで。」
僕は起き上がり、洗面所へ向かう。
顔を洗って、鏡を見た。
自分が書いた小説を思い出す。ある日突然怪物になった男は、最後どうなったのだろう。
・・・ハル、僕が怪物なのは、ゲイだからじゃないよ。もしかしたら君を傷つけてしまうかもしれないから。
たまに、独占欲とか、嗜虐心とか性欲とか、自分の醜い面に怖くなるし、最近はそんな怖いみたいな青春っぽい感情より、呆れが強い。
一体いつになったらちゃんと人間をやれるんだろう。まともになりたい。どうしようもなく衝動的になることがあって、そんなところをハルに見られたくないな、と思う。
昨夜だって、ずっとハルを抱きたいと思っていた。多分ハルはそんなに性的なことに興味がないのだろうけれど、僕は、ある。普通の欲望じゃないかもしれない。ハルの体を全部暴いて、僕のものにしたい。泣かせたい。自分で泣かせておいて、優しく慰めたい。僕なしで生きていけなくなればいいのに。
でも、乱暴にするとハルの心が離れて行ってしまうから、僕は待とうと思う。そのあたりの匙加減は、多分料理と同じだ。自分の都合だけでやったって、潰れてしまうものというのがある。
力任せの押せの一辺倒で、壊してしまったものがたくさんあった。でもその苦々しい失敗のおかげで、僕は今、ハルの隣にいられるのだと思う。
思い通りにはいかないけれど、それはそれで、なんて、・・・多分、ハルとの関係まで壊してしまったら、そんなことは言えないけれど。
洗面所から戻ってくると、ハルは帰り支度をしていた。
「ルカ、ゴメン、もう帰る。」
「うん…今度は、泊まる用意しておいで。」
ハルを見送って、一人になってしまった。
寂しい。一人の部屋は、慣れてるはずだったのに。それでも、寂しい。
雨は上がっていた。けれど、肌寒い気がする。もうこんなに日が落ちている。
次に会えるのはいつなんだろう。
ハルに会えないなんて、死んでしまいそうだ。でも、人間なんて案外頑丈なものだから、きっと僕は明日も笑って生きちゃうんだろう。
夕飯は、作り置きしたもので軽く済ませる。味気ない肉じゃがだ。
不意に今日の昼間見た夢がフラッシュバックして、昨夜の出来事とオーバーラップした。
ハルの肌の色。いい肉付きの腕。引き締まった胸から腹にかけてのライン。細い腰。
急に唾液が湧いてくる。
ああ。思い切り、かぶりつきたい。
「ひとでなしすぎる・・・」
料理を平らげてしまってから、自分をきもちわるいと思った。
食欲と性欲の区別が付いてないのか。ほんとうにまずい。このままだと犯罪者になりかねない。
次、ハルに会うときまでに、こんな欲望無くなってますように、と、僕は思った。多分なくならないけれど。
だってこれは、ハルと会ってから無意識に僕が積み上げてきた欲望が、いよいよ表に出てきたものだと思うから。根が深い。
調子に乗りすぎだ。相思相愛になったからって、僕は。
そう、調子に乗りすぎ。それだけのことだ、多分。
まぁ、ほんとにやるならやるで、ハルをそういうのが嫌じゃないように変えていく必要があるし。気長にいこう・・・
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