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30 side真慕
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side真慕
「真慕〜、ただいま。」
玄関から声が聞こえる
まだ外は真っ暗じゃない
昨日散々泣いたからか、葵の帰宅は早かった
いつもそう。
前日に何かあると葵は決まって早く帰ってきた
仕事を休む時だってある
それくらい俺のことが好きらしい
こんな奴の何がいいのかは分からない
「んー…。」
声を出すのも面倒くさくて寝返りを打てば、コンコン、とノックが聞こえ、葵が部屋に入ってきた
「ただいま。」
優しい吐息といつもの音。
寝苦しくない?とごちゃごちゃになった布団を綺麗に直してくれて、その後暖房で逆に暑くなって汗をかいている俺を見て暖房を切ると部屋の窓を開けてくれた
気持ちいい柔らかい風が入ってくる
「今日のパジャマ可愛いね」
それだけの事で嬉しそうに俺のお腹を撫でる
「今さっき5時になったんだけどね、お腹空いてない?」
「……いらない。」
「うん、わかった。あ、ねぇねぇ真慕」
「何?」
「新しいお家、これにしようと思うんだけどどうかな?」
場所はここでね、このお家。
パンフレットを見せられて今日ようやく初めて体を起こした
「この会社さんのコンセプトは『安心する家』なんだって
機能性はもちろん、目にも優しい造りで、実際に見てきたけど暖かい雰囲気だったよ
何社か見てきたけど真慕と住むならここかなぁって。注文も色々できるみたいだから真慕の好きな色の壁にもできるよ
場所はここ。今より田舎。
真慕が外出たいなって思った時にも安心だよ」
車があれば10分くらいで買い物は行けるし、丁度いい田舎具合いじゃない?と葵が俺を膝の上に乗せながら嬉しそうに話す
…子供とかいれば、文句ない幸せな家庭だろう
子供か。
まぁもし俺が女だったとしても、痛いのは嫌だから断るだろうけど。
「真慕?」
「…寝る」
あまり考えたくない
子供のことも、体が痛いという感覚も。
この頃真慕の体調は良くなかった
考えたくない、思い出したくない、きっかけがあちこちにある日常生活で脳の働きを否定ばかりして無心になる
少しづつだけど、物事をやるにあたっての前後さえも分からなくなっている時がある
腕の中にある、一生かけて守ると決めた温度。
…何もかも、忘れてもいいんだよ。
それで辛くなくなるなら。
その為にも安心できる空間をひとつでも多く与えてあげたい
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