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それでも僕は君が好き Ⅱ
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結翔がこの町に引っ越してきて、ほんの数週間。そして、今日は中学の入学式。全くの新しい環境での学校生活に少し不安を抱えながら、桜咲く校門をくぐった。
(ふぅ・・・。)
大きく深呼吸をして1年のクラス分けの表を確認しようと玄関脇に移動しようとしたとき、目の前に、スマートできれいな顔立ちの男子が通り過ぎるのを見つけた。
(かっこいいな・・・。先輩かな。)
結翔は少し目で追いながらも、クラス分けの表を眺めた。
(Ⅰ-3か・・・。)
下駄箱を通ると、先輩が教室案内をしてくれていた。小学校からほぼ一緒のメンツのせいか、教室に入ると既に皆顔なじみなのか賑やかだった。机には名前が貼ってあった。
(ここか・・・。)
座席はあいうえお順になっていた。結翔は自分の席を見つけると静かに座った。
(あ・・・。)
前の席にはさっき見かけた男子が座っていた。結翔は思いきって声をかけた。
「おはよう、はじめまして。僕は白羽 結翔といいます。」
「あ、おはよう。設楽 智です。」
智は智は結翔の顔を見ると静かに言った。近くで見る智は、まだまだ小学生が抜けきったいない男子の中で、少し大人びて見えた。
「はい、1年生は入学式始まるので移動です。」
上級生が教室に迎えに来て、そして入学式が始まり、あっという間に1日が過ぎていった。
(ふぅ、なんとか終わったか。)
初めて見る顔だったせいもあるかもしれないが、一緒のクラスの子にはいろいろ声をかけてもらえた。なんとかやっていけそうだ。
「はい、今日はこれで終わり。明日からも元気にな!」
担任になった体育教師はハキハキと言った。
「結翔くん、君の家はどの辺?」
不意に前に座っていた智が振り返ると聞いてきた。
「あ、僕は駅前の方です。」
「そうなんだ。よかったら一緒に帰らないか?」
「あ、はい!」
智は少し微笑むと行こうかと結翔を連れ出した。
「実はね、今日朝学校に来たときに智くんのこと見たんだ。かっこいい人がいるなって。」
「えっ?」
智が少し顔を赤らめた。
「先輩かと思ってたので、教室に来て前の席にいたときにはびっくりしたよ。」
「そ、そうだったんだ。いや、僕は見たことないけどかわいい子がいるなと、ちょっと気になってた。」
「えっ?」
今度は結翔が顔を赤くした。
「いや、あの、変な意味じゃないから・・・。」
智は自分の言葉に動揺して慌てて言った。
「あ、いえ、ありがとう・・・。」
少しの間沈黙が続いた。
「そういえば、結翔はどこ小だったの?」
「あ、僕ね、つい2週間前にこっちに越してきたばかりなんだ。」
「そうだったんだ。どおりで見たことないと思った。」
「不安だったんだけど、みんな声をかけてくれて、正直ほっとしてる。」
「まあな、かわいいからな。」
すぐに返した言葉に、智はまた動揺した。
「あ、だから、その、変な意味じゃなく。」
今度は結翔はクスクスと笑った。
「かわいくないですよ。智くんはイケメンですけどね。」
「誰も言わないよ。無愛想でかわいげないってみんなに言われるし。」
「そうなの?でも僕にはこうやってちゃんと話してくれるでしょ。」
「それは、お前かわいいから。」
「なにそれ。恥ずかしいから、やめてよ。これでも男子です。」
結翔は笑いながら言った。
「友達になってくれよな。」
ちょっと真顔に戻って智が言った。
「うれしいよ、こちらこそよろしく!」
結翔は微笑んだ。
「ここが僕の家、喫茶店なんだ。よかったら寄ってく?友達出来たって紹介したい。」
智はうんと頷いた。2人は一緒に喫茶店に入っていった。
それから智とは3年間同じクラスで、ずっと一緒に過ごしていた。お互いの気心も知っていて、一番落ち着けるそんな存在になっていた。
「ふぅ、受かってよかったよ。」
結翔は合格発表のボードに自分の番号を確認すると、大きくため息をついた。
「智は、もちろんあったんでしょ。」
「うん。」
智はうなずいた。
「ですよね、まあ、智ならもう一つ上のランクの学校も余裕でしたでしょうに。」
「いいんだよ、これで。」
智は結翔の顔を見た。
「まあ、おまえは頑張ったよな。」
「智様が教えてくれたおかげですよ。」
担任には一つランク下げろとずっと言われてきた。でも結翔はどうしても智と同じ学校に行きたかった。智もきっと同じ気持ちでいてくれて、合わせてくれたんだと結翔は思っていた。まあ、智はそんなこと一言も言わなかったが。
高校では智とはクラスが初めて別れた。まあ、智は特進クラスだし、僕は普通科なので仕方が無いが。
「ねえねえ、君、名前教えて?」
教室に入ると一人の男子が駆け寄ってきた。
「え、あ、白羽 結翔です・・・。」
「結翔くんね!僕は杉並 薫、一目惚れしました!付き合ってください!」
「ん?」
クラス中の視線が二人に一気に突き刺さる。そして女子たちが一気に盛り上がる。
『まじかよー』
男子たちも好奇心でいっぱいの顔になる。
「ええと、薫くんだっけ?ええと、僕、こう見えても男子ですけど。」
「はい!問題ないです!」
『おおおおー!』
クラス中が盛り上がる。結翔はだんだんおかしくなってきて、笑う。
「よくわからないけど、まあ、まずはお友達から。」
クラス中から拍手が沸いた。
「結翔~、昨日うちに国語の教科書置いてったぞ。」
そこに智が教科書片手にやってきた。
「あ、ごめん、ありがとう。」
教室が一気にどよめく。
『え、またイケメン来たよ。なにこれ、三角関係に発展?!』
女子たちがさらにヒートアップする。
「き、君は誰だ!」
薫が一歩引きながら叫ぶ。
「ん?」
智がじっと薫を見つめる。
「あ、僕に一目惚れって、今言われたところ、杉並 薫くんです。」
「え?そうなの?それでこの空気?あ、間の悪いときに来た感じ?」
智はちょっと首をすぼめた。
「どうも、設楽 智です。特進にいます。結翔とは中学からの友人です。」
「そうだったんだ。負けませんからね~。」
智は苦笑すると、んじゃまたと教室を出て行った。
夏になった。昼食の時間になると智も結翔の教室にやってくるので、薫と3人で昼食を食べるのが日課になっていた。
「智、また告白されたの断ったんだって?」
薫が言った。
「うん、まあな。」
智は表情変えずに答えた。
「相変わらずモテるよね。中学時代からずっと。」
「ふーん。」
「でもみんな断ってる。」
「今のところ恋愛に興味が無いだけだよ。」
智はさらっと言った。
「モテる男の余裕の発言だな。」
薫がこの野郎とばかりに智に肘つく。最初はどうなるかと思ったけれども、意外にこの二人は仲がよい。
「薫だってこの間、2年の女子に告られてたじゃん。」
結翔が言った。
「えー、だって僕には結翔がいるから~。」
「はいはい。」
結翔が苦笑する。
「結翔よりかわいい子なんてこの学校にいないし~。」
「はいはい。」
最近は受け流すのに慣れている結翔だった。
「ほんとにおまえ、結翔に一途な。」
智は苦笑しながら言った。
「あら、智、焼いてる?」
「はいはい。食わないならもらうぞ。」
智は薫の弁当から卵焼きを奪った。
「あー、好きだから最後に残しておいたのに!!食べ物の恨みは怖いんだぞ。」
泣き真似をしながら薫が言った。
「結翔~、慰めてよ~。」
「はいはい。」
結翔は笑った。
その日の放課後だった。結翔は薫から少し時間を作ってほしいと言われた。
「うん、智も講習って言ってたし。んじゃ、僕んとこ来る?」
「あ、いや、もし良ければ、今日はうちに来ないか?」
「え、薫んち?」
そういえば、薫の家には行ったことがない。いつも大体結翔の家の喫茶店でたむろしていることが多かった。
「分かったよ。薫んとこか、部屋見てみたい。」
結翔はクスッと笑った。いつも明るい薫だったが、今思うとこのときは少し違っていた。
「行こっか。」
二人は駅前の高層マンションの前に来ていた。
「ここ。」
「え?このマンション?!」
薫がセキュリティーカードをかざすと扉が開いた。
「か、薫ってお金持ちなん?」
「・・・。」
薫は答えなかった。最上階まで上がると一つある扉の中へ結翔を招いた。
「わあ・・・。」
ガラス張りの部屋からこの街全部が見渡せんばかりの景色が広がっていた。
「ここに人を入れたのは結翔が初めてだよ。」
薫が静かに言うと、コーヒーミルのスイッチを入れた。
「す、すごい・・・っていうか、ここに一人で住んでるの?」
「ああ。うちの親、今海外にいるから。だからいつも結翔んとこでご飯食べさえてもらって感謝してる。」
薫はできあがったコーヒーを差し出した。
「結翔んとこのコーヒーよりはおいしくないけど。」
「あ、ありがとう。」
「結翔にね、この景色は一度見せたいと思ってた。」
薫は結翔をまっすぐ見て言った。
「・・・結翔、お前が好きだ。」
薫はいつになく真面目だった。こんな顔を僕たち二人には見せたことがない。
「薫?」
「真面目に言ってる。」
「僕も薫のこと大好きだよ。だからいつも智と3人で一緒にいるじゃない。」
「そうじゃない。」
「えっ?」
「俺が言ってるのはそういう意味じゃない。」
薫はじっと結翔の顔を見ている。そして、結翔の手を取った。
「お付き合いしてください。」
「ま、待ってよ。ぼ、僕は男ですよ。」
「そんなの関係ない。俺は結翔が好きなんだ。ずっと言ってるだろ。」
「そ、それは・・・困る。」
結翔はぼそっとつぶやいた。少しの間二人の間に沈黙が続いた。
「・・・ですよね。」
薫はふぅーとため息をついた。
「・・・薫?」
「お前、智、大好きだもんな。」
薫は微笑んだ。
「え?」
「俺にもワンちゃんないかなとは思ったんだけど、やっぱり無理だったか。」
薫はコーヒーを一口飲んだ。薫はいつもの雰囲気に戻っていた。
「結翔、お前智には何も言ってないの?」
「か、薫、何言ってるの?」
「しらばっくれてもだめ、ゲイの人を見る目をなめるなよ。」
薫はにっこり笑った。
「え、薫ってそうなの?」
「いつも隠してないけどなぁ。結翔ラブラブしてたし。」
薫は笑った。
「智、待ってると思うけどな。」
結翔は外を眺めた。
「あいつ誰とも付き合わないのは結翔がいるからだと思うよ。」
「僕は今の関係を壊したくない・・・。」
「そうか・・・。まあ、俺とは違うしな。」
薫はまた一口コーヒーを飲んだ。
「まあ、ふられたら二人を応援するって決めてたから。安心して。だからこの景色見に来たかったらいつでもおいで。」
薫は微笑んだ。
喫茶店に戻ると、智が待っていた。
「どこか行ってたの?」
「あ、薫の家に行ってきた。」
「薫の家?」
「駅前の高層マンションの最上階でびっくりした。」
「そうなのか。」
智はちょっと顔を曇らせた。普段ポーカーフェイスな智がめずらしい。
「・・・結翔の部屋に寄っていい?」
「あ、いいよ。そしたら何か食べるの持って行くから行っててよ。」
結翔は笑って言った。
サンドイッチとオレンジジュースを持って部屋に戻ると、智は立ったまま窓の外を眺めるように立っていた。
「お待たせ、どうしたの、座ってればいいのに・・・。」
テーブルに持ってきたサンドイッチとオレンジジュースを置いた。
「何で呼ばれたんだ、薫の家に。」
「え、あ、景色見せたいって・・・。」
結翔は少し下に目線を移す。智はぐっと近づくと壁際に結翔を追い込んだ。
「ほんとにそれだけ?」
「さ、智?」
「僕がいないときに?結翔にだけ見せたいって?」
いつになく智の目が怖い。こんな智を見るのは初めてだ。
「こ、告白されました・・・。」
「?!」
智の顔から血の気が引いたのが分かった。
「智?」
智は結翔の体を思いっきり抱きしめた。そして、結翔の唇に自分の唇を押し当てた。結翔の口の中に暖かくそして力強い物が絡みついてきた。
「ん・・あ・・・。」
そして傍らにあったベッドに結翔は倒されていた。
「さ、智・・・。」
智の右手が結翔のスラックスのベルトに手がかかる。
「だ、だめだよ、智・・・智・・・。」
結翔が必死に声を上げた。その声に智がふっと我に返った。
「ごめん・・・。」
智は慌てて起き上がると鞄を持って部屋から出て行った。
静かになった部屋で、結翔はただ途方に暮れるだけだった。
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