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第一章 始まり①
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小さな私鉄駅から歩いて5分。
煉瓦造りの温もりが溢れている可愛らしい喫茶店がある。
夫婦で営む喫茶店の評判は上々で、僕、岡本悠希(はるき)はそこの長男として生まれる。
16歳年上の姉と二人姉弟で、家族の仲は良かった。
姉は僕が10歳の時に結婚をして、二年後には男の子にも恵まれる。
年の近い甥っ子は、人見知りが激しかったが僕にとても懐いていた。
笑顔の絶えない家族と可愛い甥っ子の居る中で、僕は高校からお店に出て働くようにもなっていた。優しい常連さんに囲まれて、当たり前の生活が有難いんだと思いもせずに歳を重ねた。
そして僕が二十歳になった時。
お店はほぼ僕一人でも回せるようになっていたので、姉夫婦が両親と温泉旅行へ行く事になる。
お店を営むようになってから、旅行なんて行けなかった両親はとても楽しみにしていて
「お店なんか休みにして、ハルも来れば良いのに…」
と、残念そうにしていた両親と姉家族を笑顔で見送った。
又、笑顔で帰って来ると信じて…。
二泊三日の旅行は、時々両親から楽しそうなメールが送られてきたりして「行かせて良かった」と思っていた。
そう、あの悪夢の電話が鳴るまでは…。
3日目の夜、帰宅すると言っていた時間になっても連絡が無く帰って来ない。
お店を閉めて、店内の掃除を終えて時計を見る。
時間は23時を過ぎていた。
必ず遅くなる時は連絡する両親を心配していると、お店の電話が鳴り響く。
急いで電話に出ると警察からだった。
どうやら姉夫婦と両親を乗せていたバスが、運転手の居眠り運転で転落事故を起こしたのだ。
両親と姉夫婦は即死だったらしい。
そして事故での唯一の生存者が、甥っ子の蓮だった。
警察の話では、姉夫婦が蓮を守るように重なって亡くなっていたらしい。
蓮は子供だったからなのか。姉夫婦が守ったからなのか?奇跡的にかすり傷程度で助かった。
僕が病院に行くと、蓮は僕に抱き付いて泣きじゃくった。
怖い思いをしたんだと思う。
それでも、僕が到着するまでは決して泣かなかったと医師や看護師さん達が話していた。
僕は僕の腕の中で泣きじゃくる蓮を見た時、自分の人生を掛けてこの幼い子を守って行こうと決心したんだ。
蓮が泣いたのはこの時だけで、両親と姉夫婦の葬儀の時も泣かなかった。
蓮は事故の日から僕の手を離さないようになった。
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