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缶コーヒー
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それから俺とヒデは、離れていた時間を取り戻すかのように色あせた寒いベンチで笑いながら、俺は片手にコーヒーを持ちながら話した。この時間は今までにない心地良いものだった。
でもそんな時間はいつか消えてしまう。シンデレラが12時になると魔法が解けてしまうように。
ふと腕時計に目をやると、短い針がちょうど“12”を さそうとしている。
「もう12時か…」
小さな言葉か漏れる。
それを聞き取ったのか、ヒデは携帯電話を開き誰かにメールを打ち始めた。でもすぐにそれを閉じてポケットにしまった。
「スマホじゃないんだな」
少し馬鹿にしながら言うと肩を軽く殴られた。
「別にいいだろ、使いやすいんだよ…直、お前何処に行くんだ?俺はM市の方なんだけど」
何かを期待した口振りに少し笑いが零れた。
でも残念なことに俺が行くのは逆方向だ。
「俺はS市…全く逆方向だよ」
何とも言えない気持ちになり、残っているコーヒーを一気に全て飲んだ。さっきまでぬるいと思っていたコーヒーはすっかり冷めていた。
「直、俺さ…」
ヒデが何かを言いかけた刹那、
―…まもなく電車が参りま…―
変な音楽と共に魔法が解けたシンデレラと同じ12時の鐘が鳴り出した。俺は拳を強く握りヒデをまっすぐ見る。そんな俺と同じくらいヒデも真剣に見てくる。
「…言い忘れてたんだけど、」
ヒデがしっかりした声で言う。
「俺の中での一番のキスは、やっぱり直とのキスだよ」
少し照れたように顔をほころばせすながら俺の手を取った。寒いはずの顔が少し熱くなる。きっと今俺の顔は赤くなっているに違いない。
「俺の一番は今でもヒデだよ」
そう言い二人で照れたように笑った。
遠くから電車の音と振動がどんどん近づいてくるのが分かる。すると急にヒデがベンチから立ち上がり、俺の方を向く。
「…直、もう電車来ないみたいだから、近くのホテルに泊まんねえ?」
―もうすぐ来るだろ…―
そんな言葉を飲み込んでベンチを立ち、階段の方へ歩く。後ろからヒデがついてくる気配がした。たったそれだけのことなのに嬉しさを感じてしまう。
やっぱり俺はヒデのことが好きなのかもしれない。
ヒデの顔が耳元にやってくる。
「今日は寝かせないぞ」
小さな声で言ってくる。
それさえも心地よく思い、つい顔が熱くなる。
それに気づいたのか、耳元にヒデの小さな笑い声が聞こえた。
「なんだそれ」
そう呟きながら階段を降りる。
すると後ろから電車の音が周りに鳴り響く。
大雪だから仕方無い。
そんな言い訳を何度も心の中で繰り返した。
あのセフレには何と言おうか。
親には何と言おうか。
さて、これからどうしようか。
くだらないことが頭の中をぐるぐる回る。
「大丈夫…」
俺の考えている事を察したのかヒデは俺の手を握りながら言った。そしてコーヒーの缶を俺から取り上げゴミ箱の方へ投げた。
それは綺麗な弧を描いて、ゴミ箱の中に収まった。
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