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〜回答編〜 2
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「私ヘタレ攻めは萌えないんだよね。いい加減にしてもらっていいかな」
「他人の恋路を酒の肴にしないでください……」
「肴にもなってないから言ってるんですけど」
相変わらず容赦のないお叱りに項垂れる。
「……誘って、断られたらどうする?俺、絶対高瀬に嫌われてるし。すっげー避けられてるし……」
「それは飛内くんが嫌なことばっかり言うからでしょ!小学生かっつーの!」
そう、俺はこの二年、高瀬に近づくどころかあの一件以上に好感度を落としていた。
何かにつけて接触しようと試みてはいるのだが、顔を合わせると憎まれ口ばかり叩いてしまう。
はじめは好きな気持ちを悟られないように咄嗟に正反対の言葉を言っていたが、完全に嫌われていることを自覚してからは、もう話すきっかけさえあればなんでも良いというやけくそのような状態だった。
「うだうだしてないで終止符打って来なさい!骨は拾ってあげるから!」
「フラれる前提で話すのやめてくれる?」
尻を叩かれのろのろと会社へ向かう。
通いなれた道なのに、その先に拒絶される未来があると思うとひどく足が重い。
もしかしたらもう帰っているかもしれない。
なんせ今日は花金だ。
どうかいませんように。
そう願いながら営業課のある四階でエレベーターを降りると、どこのオフィスも真っ暗になっている中、目的の営業課だけが明りを灯していた。
気づかれないようにそっと中を覗くと、一心不乱にキーボードを叩く小さな背中が見えた。
何十回、何百回と見てきたから、営業課に入るたびにその席を確認するのが癖になっていて、顔を見なくてもわかる。
高瀬だ。
オフィスには高瀬以外の姿は見えなかった。
あんなに重い気分だったのに、その背中を見ただけで心臓の音が早くなり、気分が高揚してくる。
集中している時の高瀬は、眉間にぎゅっとシワを寄せて、唇が少しだけ尖る。
きっと今もそんな顔になっているのだろう。
想像しただけで、可愛すぎて顔がニヤけそうになる。
仕事の邪魔をしてはいけない、と思いつつ誘う言葉を思案していると、バチンッとキーボードを強く叩く音とともに、太陽のように明るい声がオフィスに響き渡る。
「お、おわったーーーー!ああ、俺の休日がはじまった!なんの予定もないけど!ビバ、休日!」
高瀬は両手を天に突きあげ、両足を少し浮かせてクルクルとイスを回転させていた。
無邪気な姿にぐっと心を持っていかれそうになりながら、さっさと帰り支度を始める高瀬を引き留めるため、見切り発車でオフィスに入る。
「うわ、こんな時間まで残業?社畜すぎるだろ」
「…………」
やってしまった。
考えられる限り最悪の一手。
高瀬はビクッと身体を跳ねさせてしばし固まった後、壊れかけのロボットのようにぎこちない動きでこちらを振り返る。
「…お疲れ様です、飛内くんも残業かな?」
他人行儀な言葉と引き攣った営業スマイル。
内心相当焦りながら、どうにか通常通りを装って会話を繋げる。
「俺は忘れもの取りに来ただけ。残業しない主義だから」
「えーっと…広報課の飛内くんが、営業課になんの忘れ物かな?」
……考えてなかった。
ちらっと留美ちゃんのデスクを見ると、置き忘れたのかカバーのかかった文庫本が置いてあった。
「…留美ちゃんに貸してた本、取りに行くの忘れてたら置いておくって言われたんだよ」
それらしい理由をつけて留美ちゃんのデスクにある本を取ったところで、次の言葉を探して頭の中に無数の誘い文句が浮かんでは消える。
わからない。
こういう時、なんて言えばいいんだろう。
拒絶されたくない。
彼に近づきたい。
「そ、それじゃ、俺はこれで…」
「飲みに行かない?」
高瀬の声を遮るように放った声は、自分でも驚くほど冷静で素っ気ないものだった。
反応を見るのが怖くて、顔を上げることができない。
しばしオフィスが静寂に包まれる。
「…………は?」
やっとのことで開かれた高瀬の口から出たのは、困惑と警戒が滲む声色だった。
当然、良い反応ではない。
その後の拒絶を振り切るように、詰めるように言葉を吐く。
「まだ二〇時だし、ちょうどいいだろ。たまには同期で飲むのも悪くない」
「いや、でも、用事が…」
「さっき何もないって叫んでただろ」
とても色恋が絡んだ誘いとは思えない。
恋愛経験が乏しい男が、好きな人を逃すまいと囲っていくような気持ち悪い誘導の仕方だ。最悪。本当はもっと上手くやれるのに。
だけど、ここで引き下がったらもう二度とこんなチャンスは巡って来ない気がする。
「なにやってんの?早く行くぞ。そんなとろくてよく営業が務まるな。あ、だから残業してるのか」
高瀬はムッとして俺を睨むと、何も言わず黙って俺の後に続く。
彼がついてきてくれることにホッとした。
しかし状況は最悪だ。
どうにか挽回したい、と思いつつ、横目で見るふくれっ面の高瀬が可愛くて、自分が真っすぐ歩けてるかどうかもわからないくらい動揺していた。
ああ、最悪。
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