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何気ない
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それから二人は毎日言い合いをするのが日課になった。
教室だけのことかと思いきや、中竹は文芸部、安部は写真部という別々の部活に入ったのに共同部室になったため、部活でも暇があれば喧嘩をしていた。
それが今に至る。
「お前は何になんの?」
安倍は中竹の顔を真面目な顔で見た。
中竹はいきなりの真面目な空気に耐えられず、ふざけてみる。
「いきなりなんやねん。弁当のご飯、毒キノコが入ったやつやったんか?」
「ちげーよ! バカ……ほら、僕ら高校2年生になったじゃんか。だから、将来何になんのか考えておかなきゃいけねぇだろ。決めてるかと思って真面目に聞いてやったのに」
安部は呆れてため息をついた後、背を向けて写真整理を続ける。
中竹は聞こえるか聞こえないかの声の大きさでぽつりとつぶやく。
「心理カウンセラー」
「えっ」
安部は振り向いた。
勢い余って少しよろめいた。
中竹はちゃぶ台に顔を突っ伏したまま、続ける。
「聞くからやん、何か問題あるん? いやさ、小説とか詩とかを書いていると、風景や物だけじゃなくて人の表情や感情を見なきゃいけないわけやん」
中竹はコロコロと鉛筆を転がす。
「だから、最近ふと思うんやわ。“この人って何を考えているんやろう”とか“こういう時ってどうするんやろう”とか。そういうのって『心理学』ってやつなんだよな」
今度は部屋に引かれている紐に吊られている写真を虚ろな目で見て続けた。
「それにさ、今の時代って心に傷を負った人が沢山いるからさ。その人の心の傷を少しでも癒すことができたらなって。少しでもその人がまた立ち上がれるように、雨でグシャグシャになった地面をブラシでならしてあげられたらなって…何かしんみりしたわ」
中竹は大きく息を吸い込んで言った。
「こんな空気アカーーン。俺らしくなーい」
中竹は顔をぶんぶん横に振り、安倍の方をじっと見て、舌を出してこう言った。
「テヘッ☆ やっぱこっちがええやんな?」
舌を出しておどけてみせる中竹。
「むー、俺が話したんだから安倍も言えよな」
中竹は頬を膨らませて、ぶーぶーと小さい子供のように騒いで、ちゃぶ台を手でしきりに叩き始めた。
安倍は中竹のことを少しでも可愛いと思ったことを忘れるように咳払いをしてから語り始めた。
「僕は…カメラマンかな。でも、ただのカメラマンじゃない。世界中を駆け回ってその土地の人々や風景をカメラに納め、実際に触れ合って心に焼き付けたいんだ。誰かのためじゃなくて、僕自身のために生きたい。真実を見極めるために絶対になってみせる」
安倍は握り拳を中竹の前に向け、どや顔をした。
中竹は穏やかに微笑んだ。
「君らしいわ。真志(まさし)という名前なのに、男子の変顔とか女子のスカートの中とかの写真しか撮らない真っ直ぐな志の欠片のない君らしくてウケる♪」
「明雄(あきお)という名前のくせに、暗い小説しか書かねぇやつに言われたかねぇよ」
安倍は眉間にしわを寄せ、拳をより中竹に近づけた。
でも、拳は中竹の白い左の手のひらに包み込まれる。
「勝負しようか。今の自分の力でどのくらい出来るか。君はカメラで、俺はペンと原稿用紙で」
中竹はニヤリと笑って言った。
安部は何を言っているのか最初はわからなかった。
「とりあえず入賞したらなんでもええわ……報酬は」
中竹は掴んだ拳を引っ張り、引き寄せた安倍の額にキスをする。
「童貞、な?」
安倍は顔を真っ赤にした。
「お、おう。受けて立ってやるよ。絶対に負けないからな、俺の力を見せつけてやる!」
安部もなんとかニヤリと笑った。
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