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俺は、離婚した。
選択肢は離婚しかなかった。
『寂しかったの。』
じゃあ、仕事辞めたら良かった?
『分からない。』
結局、何のために働いて、何のために生きてたのか分からなくなった。
『ごめんね。』
既に印鑑の押してあるペラペラの紙に、用意のしてあったボールペンで名前を書いて、新品の朱肉に俺の印鑑を押し付け、判を押した。
妻は、いつから離婚を考えていたのか。
仕事を辞めて、夫婦で田舎の新天地を探したら良かったのか、全く分からない。
分からないけれど、その日から俺は独りになった。
空っぽの心を抱えて、これから何を信じたら良いのか分からずに。
「ほら、しょげんな!!」
「うるさい、ほっとけ。」
大学時代の悪友から、しこたま飲ませられて、うろ覚えだけど、多分泣いた気もする。
世の中、コロナ禍で人との距離を取らなきゃならない時代だけど、悪友加藤のアホな距離感のおかげで、救われたのも事実だ。
肩を組まれて、その温かさが嬉しくて、多分泣いたんだ。
嫁のことを思い出して泣いたんじゃないと信じたい。
「ほら、帰るぞ!」
「いい。ひとりで帰る。」
終電も早くなって、店も開いてるところも少なくて。
本当は一緒に帰った方がいいって分かってる。
分かってたけど、まだ人の足音がたくさんする街中にいたかった。
「お前、本当に大丈夫か?」
「うん、加藤は帰れよ。」
駅の方向に背中を押した記憶は残っている。
そして、そのあとコンビニに入ってビールを何本か買った記憶まではうっすらだけど残っていた。
だんだんと静かになっていく世界と、いつも静かな空を見上げながら、ビールを飲んで・・・。
なんか揺れるなぁと思ったのが最後の記憶だ。
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