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「じゃ、ありがと。」
娘さんをわたしにください。
そんな台詞を言うのは人生2回目だ。
1度目は、元嫁の両親に。
そして今回の忍さんのおばあちゃんに。
おばあちゃんは、涙を浮かべて喜んでくれた。
そして、すみれをよろしくと、深々と頭を下げてくれた。
結局、一口しか食べてくれなかった玉子サンドと、少し冷めてしまった水筒のコーヒーを手に、俺たちは病院を出た。
そして、
「これ、預かってた財布とスマホと・・・鍵。もういいよ、帰って。」
じゃ、ありがと。
そう言って背中を向けた忍さんの姿に、息が詰まった。
これからひとりであの誰も居ない喫茶店に戻るんだと思ったら、泣きたくなったのだ。
「待って!」
ひとりにしちゃいけないと思った。
立ち止まった忍さんの肩に手を置いて、思いっきり引っ張った。
「メシ!メシに行こう!!」
「・・・え?」
もしかしたら、この子は朝から何も食べていないんじゃないだろうか。
もしかしたら、この子は帰ってからも、食べてもらえなかった玉子サンドを見つめながら過ごすんじゃないかと思った。
「美味いラーメン屋があるんだ。ギョウザもつけてやる!」
「・・・いい、いらない。」
弱々しく首を振る忍さんの手を握った。
「ダメだ。オジちゃんが奢ったる!」
「は?!」
グイグイ引っ張って、病院の敷地から離していく。
ここも、喫茶店も、たぶん思い出がありすぎる。
この子がいっぺんに背負っていい量を超えていると思った。
「もう帰って良いって言ったよね!ぼくのことは放っておいて!」
「放っておけるか!」
駄々っ子になった忍さんを振り返った。
「忍ッ!あったかいメシは心も体も癒すんだ。おっさんの経験値をナメんなよ!」
忍さん、いや、忍は、ぱくぱくと口を開いて閉じた。
「忍がいくつか知らないけど、まだハタチそこそこだろ?おっさんは、30超えてんだ。」
胸を張って宣言すると、忍はブハッと吹き出した。
「なんだよ、もう・・・!おっさんめ!」
「おう!たまには年功序列の縦社会の!素晴らしき楽しい世界を体験してみろ。」
笑い出したその顔に、内心胸を撫で下ろした。
笑ったせいか、随分、忍の顔色も良くなってみえる。
「こっちだよ。」
握った手を強く引いて、ラーメン屋へ歩いて行く。
ラーメン屋といっても、街の中華屋だ。
チャーハンにラーメン、ギョウザに酢豚、食べたがるものは全部食わせてやろうと思う。
人間、満腹になると気持ちも落ち着く。
そしてその時に、昨夜の加藤がしてくれたように、人肌の温かさを感じれば、なお元気になれるのだ。
「おっさんが後悔するくらい食ってやる。」
「アハハ!楽しみにしてるよ。」
ふたりで笑いながら、病院から離れていく。
忍が年相応の幼い顔になってくれて、ホッとするのと同時に胸がキュンとなった。
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