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「へぇ・・・広い。」
「嫁さんの荷物が無いから、余計に広く感じるだけだよ。」
賃貸マンションに戻ってきた俺は、いつもの定位置に鍵を置いた。
「適当に座って。」
「ありがとう・・・。」
自分の部屋に招いたものの、なんだか不思議でならない。
ものすごく知っているようで、何も知らない奇妙な関係の忍を、当たり前のように招待した。
「えっと・・・紅茶飲むか?」
「あ、うん・・・お構いなく。」
お湯を沸かしながら、スマホをチェックした。
・・・あ、やっぱりきてる。
加藤が心配していた。
『大丈夫、ちゃんと帰ってきてる。』
返信は早かった。
『お前、心配しただろ!』
『すまん。また今度な。』
持つべきものは、友人だ。
こんな歳になっても、友人という存在は有難いと感じる。
・・・忍にも、いるんだろうか。
自分のことを厄病神と言っていた。
つまり、人との接触を絶っている証なんじゃ無いだろうか。
「マンガ、読むんだ?」
リビングのソファに座った忍が、床に積み上げたマンガを見ての言葉だ。少年誌に連載中のSFファンタジーものだ。
「おう。冬にアニメ化したから、気になって大人買い。」
「ふふ、そうなんだ。」
「結構面白いんだぞ。読むか?」
「うん。」
なあ加藤。
忍を見て可愛いと思うのは、弟みたいに感じてるってことかな。
それとも抱いたせいで、女の子に見えているんだろうか。
・・・同情だとは、思いたくない。
同情なら忍に対して失礼だ。
黙って読み始めた忍のつむじを見ながら、水回りを掃除するために立ち上がった。
床は一週間くらい掃除しなくてもソコソコ綺麗だが、水回りはそれなりに汚れる。
せっかく泊めるのだから、清潔な環境で泊まらせてあげたかった。
そういや、お菓子あったっけ?
朝メシも考えていなかった。
着替えは俺の服を貸すとして、新品のパンツはあったかな?
ここでも段取りの悪さが顕著に現れた。
仕事なら難なくこなせるのに、生活面になると情けなくなるほど動きが悪くなる。
いかに使えないヤツかが、改めて自覚できた。
・・・ひとりで生きてくには、こういうところも出来なきゃいけないんだ。
忍は、いつから一人でいるんだろうか。
タイルの掃除を終えて、ザッとシャワーの水を流しながら泡が消えていくのを見つめた。
たったひとりであの喫茶店を切り盛りしながら、おばあちゃんに合わせて芝居を打つ。
決して自分の名前を呼んでくれない毎日は、きっと辛くて悲しさに苦しめられていたはずだ。
胸が潰れそうに痛い。
忍の力になってあげたくて、どうしたらいいのか思案を巡らせた。
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