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そこからは、あっという間だった。
おばあちゃんの出た病室から、私物を持ち出した。
もう使う予定のないオムツは病院に寄付して、細々としたものを紙袋に詰め込んだ。
病院から必要な書類を受け取って。
病院から斎場に電話して。
それから、それから。
お通夜もお葬式も、こんな時代だから家族葬にさせてもらった。
それでも弔問に訪れる人は途切れることがなくて、おばあちゃんが沢山の人から愛してもらっていたことが分かった。
「忍くん!」
「おじさん・・・!」
おじいちゃんの弟の息子さん。
たまにしか会わなかったけど、そのたびに優しく声を掛けてくれていた人だ。
会社を休んでくれた歩さんの上司だったらしくて、互いに目を白黒させていた。
「新里くんは、忍くんと知り合いだったのか?!」
「は、はい。・・・急に仕事を休んですみません。」
「いやいや、こちらこそ申し訳ない。」
おばあちゃんの前で、大の大人がぺこぺこ頭を下げ合ってるのを見て、不謹慎だけど何だかおかしくなった。
「・・・不思議。」
「ん?」
通夜の晩、歩さんとふたりで祭壇の前で座って色んな話をした。
「金曜に知り合ったばっかりなのに、なんでここにいるの?」
「・・・それ、今言う?」
夜中でも、弔問は絶えない。
商店街のみんなが、お店が終わってから来てくれたからだ。
それでも途切れた合間に、歩さんのことをたくさん知ることができた。
「だって、変でしょ。」
「そうか?俺はすっかり忍の事が好きになったよ。」
「ふぅん。」
くすぐったい。
嬉しくて鼻の奥がツンとした。
「ふぅんって、お前なあ。」
腕を組んで、ちらりと不満そうな歩さんを見た。
「同情ならいらないから。」
「同情ねぇ。なあ、忍はさ、」
弔問客用のアドレス帳を持ってきた歩さんは、ボールペンで字を書き出した。
愛情、感情、苦情、温情、激情、強情、心情・・・
「何やってるの?」
「ん?お前が同情っていうからさ、情けっていう字を使った言葉を書き出してた。」
「・・・なんで?」
情感、情緒、
「いいから。他に何がある?」
「んー・・・情熱?」
情熱、発情、表情、旅情・・・
「みんな情けっていう字が書いてあるけどさ、そもそも悪い意味だけじゃないだろ?」
「うん。」
りっしんべんに、青。
りっしんべんは、そのまま、心という字から出来た。
「で、この青って何だと思う?」
「あお?」
んー・・・。
「空のことを青を使って何ていうよ?」
「青空。」
「そ。青く澄み渡るっていう意味。そこから、偽りのない心ってことで、りっしんべんに青。」
青く澄み渡る心・・・。
「だから、黙って愛情を受け取れ。」
偽りのない、愛。
それが愛情・・・。
「ふふ、バカじゃないの?」
涙が出そうになって、慌てて俯いた。
そしたら、頭をぽんぽんされて、そのまま後頭部を引き寄せられた。
「ハナタレ。全身全霊で甘えろっつっただろ?」
「バカ!」
歩さんの胸の中で、トクトクと同じリズムで鼓動を刻む心臓の音を聴いていたら、久しぶりに眠気を覚えた。
ふわっとアクビをしたぼくに、歩さんは安心させるように背中をあやしてくれた。
「・・・ちょっと寝ろ。明日も忙しいぞ。」
「うん・・・。」
眠い。
眠いってこんな感じだったっけ。
思考が纏まらない。
体も動かすのが億劫で、ぼくは抱きしめられたまま力を抜いた。
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