アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
60
-
「うっまッ!!」
加藤さんが、アイスコーヒーを飲んで歓声をあげた。
「本当、美味しいです!」
杉さんも笑顔で褒めてくれた。
手放しの評価に、ぼくは凄く嬉しくなって、思わず背中を向けてしまった。
・・・どうしよう、どんな顔したらいいのか分からない。
「忍ちゃんのコーヒーは、いつ飲んでも美味しい。本当に店はやめてしまうのかい?」
「・・・おじさん。」
不動産屋のおじさんからそう言われて、ぼくは振り返って眉を下げた。
「だって、ぼくなんか・・・。」
きちんと経営も出来ないし、たったひとりでやっていく自信も無い。
そう続けようとしたら、歩さんから叱られた。
「ぼくなんかって言うな。」
「・・・ごめんなさい。」
謝ると、山田さんがアイスコーヒーに付けたストローを、加藤さんの手の甲に突き刺した。
「イデッ!!」
「あら、ごめんなさい?テーブルだと思ったの。」
「ひでぇ!!」
悪くなりかけた空気が元に戻った。
加藤さんがカウンターに肘をついて身を乗り出した。
その暑苦しいくらいの笑顔が、今のぼくには素敵に思えた。
「ね、忍ちゃん!俺の赤鬼、格好良かった?」
「ふふ、格好良かったですけど、反撃するんですね。」
「するさ!みんなして俺を標的にして。」
散々投げた。
その投げられたおつまみ豆たちは、ぼくがコーヒーの準備をしている間に、みんなが拾ってくれていた。
「な、忍。次やるとしたら、何を改善したらいい?」
「え、改善?」
特に思いつかない。
歩さんに首を傾げてみせた。
「思いつかないけど、強いて言うなら、加藤さんのジャージかな。杉さんと財津さんは鬼のパンツだったし・・・。」
「なるほど。他には?」
「ほか?」
うーん。
「おじさんにも投げて欲しかったかも。」
「よし、分かった。」
歩さんが頷いた。
「で、忍。」
「はい。」
カウンターに山盛りになったおつまみ豆を、歩さんはいじりながらぼくに話しかけた。
「まだ自分のこと厄病神が憑いてるとか思ってる?」
みんなの視線が集まった。
急にバツが悪くなって、ぼくは俯いた。
思ってる。
おばあちゃんが亡くなったのも、ぼくが不幸を呼んだに違いなかった。
「・・・そっか。」
みんな、淹れたアイスコーヒーを無言で飲んでいた。
静かな店内に居心地が悪くなって、ぼくは更に俯いた。
「なら、今度は忍が鬼役だな。」
「え?!」
歩さんの言葉に、ぼくは慌てて顔を上げた。
「厄病神を祓う。今度は不動産屋のオヤジさんも参戦だ。」
「ええ!?」
おじさんが笑顔で立ち上がった。
「やれやれ、忍ちゃん。本気で行くぞ?」
「ええーーー?!」
スクッと立ち上がったみんなは、カウンターのおつまみ豆を手にぼくの周りに立った。
「ちょ、ちょっと本気・・・?」
ぼくはサァッと青ざめたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
60 / 201