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疼く(うずく)。
古傷が疼く。
または、恋する人を想うと胸が疼く。
いずれもズキズキと痛む時に使われる言葉だ。
やまいだれに、冬。
やまいだれは、人が布団に寝込んでいる姿を表していることから考えて、漢字そのものは心が辛く寝込んでいる様子を表している気がする。
歩は現在、この状況下に置かれていた。
・・・結局、忍に黙って持ち出してしまった!
もちろん、内緒で持ち出したのは通帳ではなく手紙だ。
そして、もうひとつ。
母子手帳の保護者の欄をスマホに撮っておいた。
この保護者の欄には、妊婦である母親の名前、生年月日、職業を書く欄がある。
そして同様に、父親の欄も存在した。
続柄
母:奥田すみれ 昭和52年8月10日
父:大久保 渉 昭和45年12月10日 大学講師
大学講師。
つまり辞めていなければ、年齢的に准教授か教授ぐらいになっている可能性があった。
会社に出勤するふりをして出てきた歩は、近所の公園で父親の名前を検索した。
・・・大学、理工学院准教授?
ハッとした。
忍って、工学部的なところじゃなかったっけ?!
「えっと、専攻は確か、」
・・・量子力学。
調べていたスマホを膝に置き、顔を両手で覆った。
心臓がおかしな動きをして、息が詰まった。
量子力学は、物理学になる。
ざっくり言えば、目に見えない分子(原子や電子等も)を量子と呼ぶが、その量子の動きを調べるのが量子力学だ。
震える手で、スマホを握りしめた。
忍が通っている大学名を確認する必要があった。
「・・・お疲れ様です、新里です。奥田部長はおられますか。」
部長と話をして、電話を切った。
胸が疼いて、倒れそうだ。
何で神様は、忍に辛く当たるんだろうか。
父親と同じ学問を目指すなんて、いったい何の冗談だろう。
おそらく、何度も教鞭を取っているはずだ。そして実験の際には、忍の隣に立っていたかもしれない。
その真実を知った時、忍はどう感じるだろう・・・。
会わなくてはならないと思った。
まずは、大人同士で話をすべきだと思った。
・・・勝手に動く俺は、間違っているのかもしれない。
正解が見出せないまま、歩は大学の電話番号をタップした。
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