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その背中から、深い愛情が感じられた。
「彼は、わたしとすみれとの子です。叶うなら引き取って育てたかった。」
だが、結果は祖父母の元で育てられた。
すみれさんは籍を入れていない。
難しいことは分からないが、親権を主張しても、引き取ることは厳しかったのではないかと推測できる。
それに、単身で赤ちゃんを育てるのは難しいだろう。
「・・・ご結婚は、いつ?」
「すみれが亡くなってから一年後のことでした。」
結婚をしているのに、そのうちの5万円を捻出するのは難しかっただろう。
ましてや、大学生に毛の生えたくらいの年齢だと、そうそう給料は高くない。
・・・この人なりに頑張ったんだろう。
「すみれの年忌に、一度だけ参列しようとしました。結局見つかって追い出されましたが、その時、忍は声を掛けてくれたんです。」
大久保さんは体の向きを変えると、潤んだ瞳で俺を見つめた。
「おじさん大丈夫?って、すみれそっくりの顔で聞いてくれました。」
ああ、可愛かっただろう。
愛おしくて、きっと抱きしめたかったろう。
「・・・大学生として入学してきた時は、本当に嬉しかった。」
しかも自分と同じ学部だ。
血の繋がりを感じただろう。
笑顔の大久保さんに、事実を伝えた。
「忍は、休学手続きをしました。」
「・・・え。」
硬直した頬を見ながら、俺は言葉を繰り返した。
「休学手続きです。退学届じゃなくて良かったと思います。」
大久保さんは走ってきて、俺の肩を掴んだ。
「なぜ?!」
「・・・全てを投げ捨てて遠くへ行くつもりだったからです。」
痛みを感じるくらいの強さに、大久保さんの動揺が窺えた。
「忍がひとりで抱え込むには、祖母の死は大きかった。」
「でも・・・!だって!」
ゆっくりと俺は、握られた肩の上に、手のひらを重ねた。
「俺も忍とは、まだ出逢って一週間程度です。」
大久保さんの顔が真っ赤になった。
「恋人だと・・・!」
「いいえ、言ったでしょう?恋人候補なんです。・・・毎日毎日、口説いていますよ。」
愕然とした顔を見ながら、俺は大久保さんをソファーに誘導した。
座らせると、コーヒーを淹れに壁際に向かった。
「いっ・・・週間。」
「ええ、時間は関係ありません。」
電気ケトルからお湯を注ぎ、スプーンでかき混ぜた。
ふわりと良い香りが立ち上り、俺は芳醇な香りを吸い込んだ。
「俺は忍のことが好きだし、ずっと守ってやりたいと思っています。」
紙コップと使い込まれたマグカップを手に、応接セットに戻った。
「正直に言います。今日は、あんたがどんな野郎か見極めに来たんだ。」
そう言ってカップをズイッと差し出すと、大久保さんは目を白黒させたのだった。
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