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「ただいま。」
「お帰りなさい!」
歩さんは、本当にショートケーキを買ってきてくれた。
「良い子にしてたか?」
本格的な子ども扱いが、くすぐったくて仕方なくて。
だから、ちょっとだけ甘えてみた。
「うん、お洗濯もお掃除もしてご飯も作ったし。」
気持ち頭を歩さんに向けると、歩さんは笑顔で頭を撫でてくれた。
撫でられてすごく嬉しいし、胸がムズムズするし、なんだかニヤニヤしちゃって、ぼくは唇をギュッと引き締めた。
「もう!ぐちゃぐちゃになるでしょ!」
後ろを向いたのは、ニヤニヤがバレないため。
甘えさせてくれた歩さんに、溶けちゃいそうだった。
「エライ!さすが忍!!天才!」
「白々しいんだからっ!」
憎まれ口しか出ないけど、やっぱり好き。
歩さんといると、幸せな気持ちになれる。
ドキドキするし、きゅんきゅんするし、すごく忙しい。
歩さんのおかげで、少しだけど前向きになれた。
「そうか?って、・・・良い匂い!」
「でしょ?」
部屋中に、芳ばしいお肉の焼けた匂いが広がっている。
歩さんは鼻をヒクヒクさせるとニンマリと笑った。
明日のこと、話さなきゃ。
明日、お店に常連さんだった人を招待して、おばあちゃんとのささやかなお別れ会をするって。
「あのね、歩さん。」
「待って、すぐ手ぇ洗ってくるから。」
あ。
・・・おなか空いてるんだね。
だよね、お仕事行ったんだもん。
ご飯食べながら話そう。
「あ、忍!うがい薬買ってくれたの?」
「うん、切れてたから。」
「サンキュ、助かる。」
洗面所からパシャパシャと水音が続いている。
なんだか新婚さんのやり取りっぽくて、ドキドキした。
・・・籍を入れるって、どんな感じになるんだろう。
同じ名字になって、家族になる。
奥田から新里になるって、どんな感じかな。
お茶碗をテーブルから取って、ご飯をよそっていく。
ふわりと立ち上る白米の香りが甘く鼻腔をくすぐった。
「ごめん、お待たせ!」
「先に着替えたら?」
ワイシャツ姿で目の前に立たれると、ドキドキが止まらなくなる。
ほんの少し緩められた首元に視線が向かってしまって、セックスしたことを意識してしまうのだ。
「そうか?」
素直に寝室に消えた歩さんを確認して、ぼくは息を大きく吐き出した。
・・・どうしてこんなに格好良く見えちゃうんだろ?!
やばい、好きすぎるかも!
平然としたふりをするために、深呼吸を繰り返した。
ぼくは歩さんのことは好きじゃありません。
ぼくは歩さんのことは好きじゃありません。
ぼくは歩さんのことは好きじゃありません。
ぼくは歩さんのことは好きじゃありません。
ぼくは歩さんのことは好きじゃありません。
・・・落ち着け、落ち着け。
深呼吸をしながら自分に言い聞かせると、ほんの少しドキドキがおさまった。
「うわ、チキンステーキだ。」
「うん、お好みで黒胡椒かけてね。」
当たり前のように向かいに座ったぼくに、歩さんは目を細めて笑ってくれた。
「いただきます。」
「めしあがれ。」
めしあがれ、なんて本当に新婚さんみたいかも。
それだけで、きゅんとした。
「あ、そうだ。明日なんだけど。」
歩さんの言葉に、首を傾げた。
「会わせたい人がいるんだけど。」
「会わせたい人?待って、明日は、」
明日はお店でお別れ会だ。
「お店に行こうと思ってて。」
「店?」
「うん。」
そう言うと、歩さんはちょっと考える顔をした。
「・・・じゃあ、店に連れて行こうかな。」
チキンステーキを一口齧った歩さんは、目を大きく見開いて叫んだ。
「うまっ!!何これ?!」
「良かった、お口に合って。で、誰を連れてくるの?」
「親。父親だよ。」
!!!
「お父さん?!」
思わず立ち上がって叫んだ。
「なんで?!」
「今日会ってきたんだ。ケジメが必要だろ。きちんと精査した上で決めたんだ。」
え、え?
いま清算って言った?
その、離婚したから・・・?
「それで連れて来ようと思った。もし忍が嫌なら、断ってくれて構わない。」
どうしよう。
まさか歩さんのお父さんと会うなんて、考えてもいなかった。
でも、結婚するのであれば、やっぱり挨拶はしておかないといけないだろうし、歩さんのいうケジメは必要なのかもしれない。
どうしよう、どうしよう。
怖いかも。
「その・・・、心の準備が。」
「大丈夫、きっと大丈夫だから。」
それにまだ、歩さんに好きって言ってない。
「ま、まだ言う気ないからね。」
「勇気ね。大丈夫、俺が一緒にいるから、乗り越えられるよ。」
の、乗り越えるって!
「そ、そんなの順番おかしくないかな。」
「順番?たとえば?」
えっと、えっと。
「こ、告白とか!!」
恥ずかしい!!
「それはしてもらうよ。」
「ええ?!」
「何があったのかとか、全部話してもらう。」
あ、あんなこととか、こんなこととか?!
「無理!むりむりむり!」
「大丈夫、ずっと手を握ってるから。」
だ、だって!
「あ、したは、常連さんに来てもらってお別れ会をするつもりなんだ!」
「ん〜・・・おばあちゃんを偲ぶ会か。」
おばあちゃんと忍会?!
「なにそれ?!」
「は?」
「え?!」
歩さんが箸を置いて身を乗り出した。
そしてぼくの頬を両手で包んでくれた。
「落ち着け忍。父親と会うのは嫌?」
「ううん・・・、だ、大丈夫。」
そのまま唇を塞がれた。
リップ音を立てて離れた歩さんは、困ったように笑った。
「無理してない?」
「う、うん。えっと・・・お別れ会の前でもいい?」
「もちろん。人が多いと話し辛いだろうし。」
常連さんの前で告白なんて恥ずかしすぎる!
「・・・それに、多分、忍の知ってる人なんだ。」
「え。」
歩さんのお父さんと、ぼくが知り合い・・・?
だれ?だれ?
「誰かは言わないよ。明日、直接本人から聞いた方が良い。」
うわ、どうしよう。
「き、緊張してきた・・・。」
「なら後で解れることをしよう。」
「ほぐれる?」
今度は唇を噛まれるように吸われた。
背筋の奥からゾクゾクが這い上がってきて、小さく息が漏れた。
「俺のこと、好きになって。」
「・・・ぁ、ん!」
腰が動いちゃう。
思わず自分自身の膝を擦り合わせた。
「な、ならないもん。」
「なるよ。」
ああ、自信満々。
好き。
好き。
歩さんのこと、好き。
「明日、頑張ろうな。」
下唇を甘噛みされて、もう無理だった。
「んあっ!」
一度飛び出した甘い声は、もう戻らない。
歩さんの舌に翻弄されながら、ぼくは下半身がぐずぐずに溶けていくのがわかった。
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