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朝からめちゃくちゃソワソワした。
どうしよう。
どうしよう。
やっぱりお父さんに会うなんて早すぎるよね!
「歩さん、その今日の・・・少し早いと思うんだ。」
勇気を振り絞って歩さんに言ってみたけど、優しく抱きしめられて「大丈夫、大丈夫。俺がいるから。」と絆された。
「大丈夫だって。忍はひとりじゃない。」
だって結婚するんだからひとりじゃないけども!
「ほほ、本気?!」
「本気。大真面目。だってこのステップは必ず踏まなきゃらならない。」
無理ーーー!!
歩さんをぼくにくださいって、言えない〜!!!
「今日じゃなきゃだめ?!」
「早めに済ませておいた方が良い。先のことを考える時期だし、自分の足元を固めておくことも先に繋がる。」
「か、かた・・・っ!」
固めるぅ〜!!!?
いやいや結婚だから固まるけども!
「ほら、店に着いた。」
い、やーーーーーーーーー!!!
「おばあちゃんに手ぇ合わせるぞ。」
するけど!
するけども!
店内に祀ったおばあちゃんに手を合わせて、涙目で遺影を見つめた。
おばあちゃん、ぼく、歩さんのお父さんと仲良くやっていけるかな?!
おばあちゃんは、若々しい艶々の顔で笑っている。
「と、とにかく、お迎えの準備するから。」
「おー。」
使っていないから汚れてもいないけど、人をお迎えするんだからやっぱりお掃除は必須だし、二階から色々と下ろしてこないといけない。
「歩さんは、これを冷蔵庫に入れてて。」
「分かった。」
昨日、スーパーで買った食材を持ってきた。
おばあちゃんとのお別れ会は、お店の看板メニューで もてなすつもりだ。
ハムやキャベツ、ピーマンに玉ねぎ。
カットしないといけないものは、歩さんの家で仕込んできた。
あとは時間に合わせて調理をするだけだ。
・・・良かった。
お店の食器類も処分しとかなくて。
「ちょっと二階に行ってくる。」
サイフォンや、コーヒー豆を下ろす必要があった。
台所に一直線に向かうと、奥のおばあちゃんの部屋がチラッと目の端に映って、ギュッと瞼を閉じた。
あの手紙は最後まで読んでいない。
勝手すぎる内容は、忍の心を固く凍らせた。
・・・とにかく、準備しなきゃ。
ひりひりする胸を押さえて、一階に下ろす道具を慎重に抱え上げた。
「忍〜!」
下から呼ばれて、大きな声で返事をした。
「なぁに?!」
「トマトソースは冷蔵?」
ふふ、歩さんてば。
「常温で大丈夫。カウンターに置いてて。」
「ほーい。」
いま、笑顔でいれるのは歩さんのおかげだ。
ありがたいと思うし、やっぱり好きだ。
でも、好きだと言ってしまうと、歩さんが離れて行ったときに立ち直れない。
良い人だからこそ、こんなぼくの側に居てはいけない人なんだ。
カウンターに置かれたおつまみ豆を見たら、あの時のことを思い出す。
歩さんは、厄病神を祓うって言って豆まきを計画したけれど、ぼくに染み付いた暗い思いは、そうそう簡単には消えてくれないのだ。
それでも。
大切なサイフォンを割らないように気をつけながら、階段を降りていく。
それでも、歩さんが側に居てくれるから、背筋を伸ばして生きていくことが出来ていた。
だけど、本当の意味で前向きになるには、やっぱり、
「・・・あの手紙と向き合うしかないのかな。」
「ん?なんか言ったか?」
カウンターから顔を出した歩さんに笑顔を向けた。
「ううん、なんでもない。」
考えるのは、先延ばしだ。
まずは、歩さんのお父さんをお迎えする準備をしなきゃ。
ただ、体調が万全ではないのが気に掛かっている。
「ぃたたたた。」
腰が、お尻が、太ももが、兎にも角にもパンッパンなのだ。
でも、昨夜のアレのおかげでぐっすり夢すら見ずに寝た。
それこそ、泥のように寝れた。
頭は冴えていると思う。
まずは何からお父さんに話したら良いかな・・・。
大切なおじいちゃんのサイフォンをカウンターに置くと、忍は掃除道具を取りに行った。
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