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ちょうどその頃、小夜と風見は買い物に出ていた。
小夜とは、杉小夜。
おつまみ豆を忍に投げて厄病神を追い払った人物だ。
共にいるのは、その時車で送迎してくれた小夜の愛する男性で風見暁という。
「暁さん、その喫茶店がどこか見たくない?」
小夜は幼稚園の先生をしている。
幼稚園の子どもたちのために工作物を作ろうと、今日は材料を買いに出ていた。
近くの文具屋と100均で、おりがみや画用紙、紙コップなどしこたま買い込んだふたりは、そろそろ休憩したかった。
「ああ、例の加藤のだな?」
「ふふ、そうそう。」
喫茶店は閉店中だと知ってはいるが、小夜はまた開店すると睨んでいた。
あの美味しいコーヒーを作ってくれた時、忍さんは自信に溢れた目をしていたのだ。
きっと、喫茶店の仕事は嫌いじゃない。
むしろ、本当は続けたいと思っている。
そう小夜は感じていた。
とはいえ、自分も教職を捨てて来た身だ。
結局、また教育者を選択したけど、あの捨てた時期は後悔していない。
・・・あの時の生徒には、申し訳ないけど。
思い出すとチリッと胸が痛むのは、罪悪感だ。
捨てたことで、風見と出逢うことができた。
捨てたことで、新しい人生を考える時間ができた。
後悔はないけれど、たぶん罪悪感とは一生付き合っていかないといけないし、忘れることは、あの時の生徒たちに悪いと思っている。
忍さんには、出来ればこの罪悪感は背負って欲しくないなぁ。
とはいえ、決めるのは彼だ。
そして、彼には、自分にとって風見さんがそうだったように、新里さんがいる。
「多分、またお店がオープンすると思うんだよね。」
「話を聞く限り、俺もそう思うよ。」
きっと隠れ家的な感じで、宣伝さえ上手にしたら繁盛店になりそうな気がする。
「昭和レトロな感じでね、素敵なんだ。」
「楽しみだ。」
場所さえ分かれば、今後の待ち合わせに使える。
表通りではないため、人通りが少ない。
きっとゆっくり過ごせるだろう。
「ほら、あそこ。」
「へぇ。・・・って、開いてるぞ?」
「え?!コーヒー飲めるかな?」
小夜は風見の手を引っ張った。
「忍さんのコーヒー、めちゃくちゃ美味しいの!」
「楽しみだ。」
そうしてふたりは目にすることになる。
モップで顔を潰されて悲鳴をあげる新里と、不動産屋のおじさんに抱きつく忍、肩を怒らせながら仁王立ちした、スーツ姿の男性の後ろ姿を。
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