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まず位置関係を説明すると、シャガールの絵が飾ってある古びた壁紙を背に、左から常連の頭の禿げたノリさん、歯抜けのトシエさん、目を丸くした小夜、身長の高い美形の風見、常連の真っ赤な顔をした忠信さん、背広の大久保と続く。
対峙するのは、不動産屋で采配を振るうおじさんと、忍、歩だ。
その彼らを見つめているのは、喫茶店のママ。
遺影の恐ろしく若いハツラツとした顔で、彼らをカウンターから見つめている。
「ま、まず君は誰だ!」
杖の向かう先は、大久保だ。
「大久保です。父親です!」
その場にいる誰しもが、理解した。
・・・忍(ちゃん。さん。)の父親か!
忍だけが、歩の父親だと思い込んでいる。
「新里さん、間違いないのかい?」
このカオスの司会役を自然と務めてくれた不動産屋の親父さんに、歩は硬い顔で頷いた。
「間違いありません。やっと見つけたんだ。」
その言葉に、忍はドキリとした。
・・・名字が違うから、深い訳があると思ってた。
そっか、歩さんの生き別れの父親だったんだ。
思わず目が潤んだ。
「歩さん・・・。」
「大丈夫、心配しなくていい。」
歩が忍をギュッと抱きしめた姿に、小夜も風見もホッとした。
小夜は、忍の心を心配し、風見はどうも忍ちゃんがオッサンではないことを確信したからだ。
・・・良かった、小夜がこんなオッサンのために鬼役になったなんて寒気がするだろ。
忍ちゃんを離せじゃなくて、忍ちゃんは離れて!が日本語的に正しかった。
横目でちっこいおじいちゃんおばあちゃんを見下ろしながら、内心舌打ちした。
・・・だいたい、小夜を打つなんて絶対許さない。
風見は小夜を溺愛している。
小夜を傷付ける人物は(幽霊も含めて)許さないのだ。
小夜は、黙って忍と大久保を見つめた。
・・・忍さん、お父さん見つかったんだね。
良かった・・・んだよね?
大丈夫?混乱してないかな?
新里さんがついてるから、大丈夫だよね?
対して常連客は一斉に冷たい目になった。
いまさら、という気持ちが大きい。
小さな赤ん坊のころから忍を見てきたのだ。
マスターとママの躾も嫌になるほど見てきた。
何をいまさら出てきて、財産でも取ろうというのか?!
そんな断罪する気持ちになっている。
表情の変わった彼らを見ながら、不動産屋で培った根性でおじさんは大久保氏に笑顔を見せた。
「みんなを代弁するよ。忍ちゃんを傷付ける気なら出て行け。」
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